世界最高峰の名手、アンドレス イニエスタ。あのイニエスタが、いま、Jリーグのピッチに立っていることが、いまだに夢のように感じている人も多いことだろう。

そんな彼が日本にやってきて、はや1年が経過した。そんな彼が新たなパートナーとしてアシックスを選んだ理由のひとつに、「新しいスパイクを一緒に開発するプロジェクトに参加できること」をあげていた。

そして、アシックスとイニエスタが共同開発によって作りあげたスパイク「ULTREZZA AI」が、そのベールを脱ぐこととなった。

イニエスタが「しつこいと思われたかもしれない」と語るほど、強いこだわりを持って開発に取り組んだこの「ULTREZZA AI」は、どのようにして生まれたのだろうか。

イニエスタのコメントをもとに、プロジェクトに携わった開発者の新堀正博(コアパフォーマンススポーツフットウエア開発部)と、デザイナーの小泉匡史(コアパフォーマンススポーツフットウエアデザインチーム)に製品へのこだわりを聞いた。

水面下で進められてきたイニエスタとのスパイク開発プロジェクト

水面下で進められてきたイニエスタとのスパイク開発プロジェクト

「卓越したボールコントロール技術」「しなやかなステップで相手をかわしていく華麗なドリブル」「一瞬でチャンスを演出するパスセンス」「洞察力や判断力に優れたプレー」「最適なポジショニング」「試合の流れを読むゲームコントロール術」など、彼のプレースタイルを表現する言葉は、枚挙にいとまがない。

「ULTREZZA」とは、ULTIMO(究極)と DESTREZA(技巧)という言葉を組み合わせた造語である。つまり、「ULTREZZA」という商品名は、イニエスタの究極の技巧・テクニックにインスパイアされてつけられた名称だ。

イニエスタがスパイクに求めたもの(1)~プレーを助長しサポート~

イニエスタは、自身のプレースタイルを、こう説明する。

「僕のプレーは、コンビネーションを主体としています。味方とボールのやりとりをしながらボールを保持し、スペースを見つけ出して、次のプレーを選択します。たくさんある選択肢の中で、常にベストな選択ができるように努めています」

さらに、スパイクに対しては、「自分のプレースタイルを助長してくれたりサポートしてくれたりすること」を大切にしていると言い、自分のパフォーマンスを最大限に発揮するための重要な相棒であることを強調した。

一方、アシックスも、それまでのイニエスタのプレーをくまなく分析し、非常に細かくステップを踏むこと、そして「イニエスタターン」と名付けられるほど、スムーズなターンに特徴があることを把握した上で、イニエスタに対して、必要な機能を提案していったという。

こうして、イニエスタとアシックスによる議論が重ねられた結果、生まれたのが「360空間と瞬間を支配する」というコンセプトだ。まるでイニエスタの異次元のプレースタイルを表しているかのようなこのコンセプトを実現するために「ULTREZZA AI」に組み込まれたのが、次の機能。新堀と小泉のコメントとともにこれらの機能について紹介する。

細かいステップやスムーズなターン動作をサポートする「TORQUE TRUSS(トルク・トラス)」と「X-Guidance(エックス・ガイダンス)」

TORQUE TRUSS(トルク・トラス)

「イニエスタ選手のような細かいステップとターンをサポートするために、内側にも外側にもある程度ネジれやすくし、足の運びに合わせて動きやすくなるような構造を採用しました」(小泉)

X-Guidance(エックス・ガイダンス)

「アウターソールのつま先部分にX形状に配置されたエックス・ガイダンスによって、さまざまな方向への動きに対し、ソールを追従させやすくし、スムーズなターン動作ができるようにしています」(新堀)

前傾を促し一歩目の踏み出しをサポート「5mm Heel Gradient(5mmヒール・グラディエント)」

「クッション材も兼ねた厚さ5mmの“fuzeGEL”によって前傾を促し、一歩目の動き出しをスムーズにし、切り返し動作もしやすい作りにしています」(新堀)

イニエスタがスパイクに求めたもの(2)~フィット感と履き心地~

実は今回、イニエスタがアシックスに最初に伝えた要望は、「フィット感」と「履き心地」だった。イニエスタは、プレー中に心がけていることを実現するために、足とスパイクが一体化し、スパイクを履いていることを感じさせず、自分の体の一部かのように扱えるスパイクを求めたのである。

このイニエスタの要望について、新堀はこのように語る。

「イニエスタ選手は、履いた瞬間の心地よさ、特に内側のやわらかさには、強いこだわりを持っていたように思います。そこで、私たちは、どうすれば、イニエスタ選手に心地よさや、足になじむ感覚を持ってもらえるかを考えました。その結果、アッパーの中足部に伸縮性のある素材を使用し、さらに従来よりもフォーム材の量を増やして、履いた瞬間の心地よさを表現することにしました」

一方で、内側の素材に厚みをもたせてしまうと、ボールタッチの感覚が損なわれてしまわないのだろうか。だが、これらの相反するような機能性についても、開発チームは、イニエスタの要望の裏にある意図を汲み取りながら、最適解を求めていったという。

「ボールを蹴る時に、アッパー部分を挟んで、足とボールの距離が近い方が良いというタイプの選手と、アッパー部分に厚みはあるけど足とシューズの一体感を求めるタイプの選手がいるのですが、イニエスタ選手は後者かなと思いました」(小泉)

アッパーの前足部には、柔軟なプラチナムカンガルーレザーを使用し、さらに硬化プリントを施すことで、柔軟性を損なわずに伸びを抑制した。さらに、エックス状にステッチを施すことで、足とのズレを抑えながら、フィット感を高める工夫が施されている。

機能性とデザイン性を高次元で両立した新たなスパイク

機能性とデザイン性を高次元で両立した新たなスパイク

このようなイニエスタとのやりとりを、合計で6度にも渡って繰り返しながら、試作品をブラッシュアップしていった。

だが、機能性を重視すれば、その分、デザインには制約が生まれてくるだろう。また、その逆も然りだ。今回のプロジェクトでは、どのような点に注意してこの矛盾点を解決していったのだろうか。

「今回のプロジェクトは、通常のプロジェクトの倍以上の人が関わったので、担当者同士の意見がぶつかることもありました。でも、お互いの共通認識として、選手のパフォーマンスを重視しながら、機能性とデザイン性の両立を探っていきました」(新堀)

「われわれの強みは、機能を表現しながらデザインするところにあると思っています。機能とデザインは、相反するものではないですし、その線形や立体の表現に理由がしっかりあれば、それはかっこいいものであるという信念のもとにデザインしています。」(小泉)

こんな言葉の端々に、プロジェクトに関わったスタッフたちのモノづくりに対する姿勢や強いこだわりが垣間見える。本来、デザインと機能性は補完し合う関係にあるべきであり、それを高次元で実現したシューズが「ULTREZZA AI」なのである。

だからこそ、イニエスタは、アシックスに対して、全幅の信頼を寄せることができたのだろう。その信頼関係は、以下のコメントからも見て取ることができる。

「アシックスの皆さんは素晴らしいプロフェッショナルな方々でした。僕のプレーや走り方を研究し、プレーを引き立たせるようなシューズを開発してくれました。1日目から素晴らしい関係性を築くことができ、自分にとって満足できるシューズが生まれました」

新たなスパイクを手に入れたイニエスタのさらなる進化に期待

新たなスパイクを手に入れたイニエスタのさらなる進化に期待

こうして、イニエスタを足元で支える新たなスパイクが誕生した。以下のコメントにもあるとおり、イニエスタは、「ULTREZZA AI」の機能によるプレーへのポジティブな変化を感じている。

「ローテーションの動きや、急な方向転換の動きがスムーズになったように感じます。また、かかと部分を少しあげてくれることで、一歩目が踏み出しやすくなり、自分のプレースタイルにあったシューズができたと思います。素晴らしい出来上がりに感謝しています」

イニエスタは、日本に来てからも、自らの価値をプレーで証明し続けている。その価値を発揮する場が、ピッチだ。

「私はすべての試合を挑戦として捉えています。なぜなら、試合というのは、自分に何ができるかというのを、自分に対して、クラブに対して、そしてファンのみなさんに対して証明できる場だからです」

「ULTREZZA AI」という新しい相棒を手にいれたイニエスタは、今、これまで以上に強烈な輝きを放とうとしている。

イニエスタとASICSの共同開発で生まれた「ULTREZZA AI」についてはこちら

Andres Iniesta (アンドレス イニエスタ)
小柄な体格から繰り出される、クイックネスを駆使したドリブルに定評がある卓越したサッカーセンスを持つMF。周りの選手を引き立たせるようなパスや繊細なボールタッチで相手をかわすオールラウンドなプレースタイルが特徴。FCバルセロナ、スペイン代表での活躍を経て、2018年からヴィッセル神戸でプレー。世界中のサッカーファンから愛される選手。

TEXT: Taisuke Segawa