「アシックススポーツ工学研究所」訪問の1 週間後に開催された「ウルトラトレイル・マウントフジ2019」(距離:約165km)では、2 位に1 時間以上の差をつけて優勝したグザビエ・テベナール選手。その強さの秘密を、自身はどう分析しているのか? トレイルランに欠かせないシューズに、いったい何を求めているのか? そして、グザビエ選手にとって「勝つ」ことの意味とは?

ランナーとしての特徴

──ほかのランナーと比べて、ご自身の強みは何だとお考えですか?

グザビエ 「すべての面で強くあろうとすること」だと思います。回復力やトレーニング、そして食事に関して特に気をつけています。これらのおかげで今の自分があると思っています。特別自分にモンスターのような強みがあるとは思いませんが、モチベーションや意欲は常にあるので、ウルトラトレイルではそれが重要な武器になっていると考えます。

──グザビエさんは、ランニングフォームがとてもキレイですよね。実際、日本人の体型に近いので、参考にするように指導している日本のコーチもいるそうです。走り方は、誰かに教わったのでしょうか? それとも自然と身についたものなのでしょうか?

グザビエ 走り方のレッスンを受けたことはありません。ただ、キレイなフォームのランナーのビデオを見るのが好きなので、そこから学び、取り入れている部分はあります。実際、上りや下りのフォームを意識するようになってからずいぶん改善されたと思います。

ランナーとしての特徴

──普段、どのようなトレーニングをしているのでしょうか? さらに、レースの1週間くらい前はどのような準備をされますか?

グザビエ 冬はスキーやトレッキング、クロスカントリースキーをたくさんやりますね。夏と春は、レースの準備のため競歩とマウンテンバイクを集中的に行ないます。練習の90%は基本的なことの繰り返しで、10%はよりインターバルなトレーニング、具体的には長めの距離を加速して走ったり、シンプルにジョギングをしたり、3〜5 時間の長距離走を平地コースや谷コースで行なっています。

ランナーとしての特徴
※FujiTrabuco PRO

──レースの直前は、どのような準備をされるのでしょうか?

グザビエ レースの10日ほど前からは抑えめな調整を行ないます。ウルトラトレイルに臨むにあたっては、肉体的にも精神的にも準備ができていないといけないので、あまりキツい練習は行なわないんです。

──メンタルを鍛えるために、どのようなトレーニングをしていますか?

グザビエ 特別な準備をするわけではありませんが、練習中、レース本番でも想定される難しいシチュエーションに出くわしたり、何時間も走り続けて疲れてきた時は、ポジティブなことをイメージするようにしています。「僕は大丈夫だ。山の中で一人だけど問題はない」と自分に言い聞かせるんです。レース本番でフィジカル的に厳しくなってきた時は、そうしたポジティブな感覚を思い出すようにしています。

ランナーとしての特徴

そしてレースで一番苦しい時は、「なぜ、自分がここにいることを選んだのか」をしっかりと自覚しなければなりません。自分で選択したのだから、自分で何とかするしかないんです。正直これは、とても難しい。だから、雨が降って厳しい環境の中で疲れて一人ぼっちだったとしても、「山にいるだけで幸せだ」と思うようにしています。世界中で起こっている紛争や不幸なことに比べたら、文句など出てきようもありません。長くてもレースは1日で終わります。人生のうちの1日なんて、たいしたことはありません。24時間歯を食いしばるだけです。目標にしているレースのことは1年かけて考えますが、実際のレースにかかるのは24時間なので、意外とあっ けないんです。

GEL-Fuji Trabuco の履き心地は?

──シューズについての質問です。フィット感、軽さ、グリップ力……。レースの際、シューズに求める機能は何でしょうか?

グザビエ 僕はまず、色で選びます……というのは冗談ですが、何よりもグリップですね。足に情報が伝わることが大事なので、靴底は薄い方が好みです。あとは、ドロップと履き心地のよさ。もちろん、軽さも重要です。

──GEL-Fuji Trabuco の印象について教えてください。

グザビエ とても軽いです。それからドロップの設計のせいなのか、クッション性があるのに地面をよく感じることができます。メッシュの部分も足を包んでくれて履き心地がいい。そして一番すばらしいのは、やはりグリップ力です。

※FujiTrabuco PRO

グザビエ・テベナールにとっての「WIN THE LONG RUN」

──「足を守り、足に負担が少ないシューズ」をつくることは、ASICS の変わることのない設計指針です。そこから生まれたマニフェストが「WIN THE LONG RUN」になります。この一文には、目の前のレースやフィニッシュラインまでではなく、「その先も、一生涯を通じて、走り続けられること」への願いが込められています。それを踏まえた上で、あなたにとっての「WIN THE LONG RUN」とは何か、教えていただけますか?

グザビエ 「健全」という言葉が、一番しっくりくる気がします。心身ともに健全であれば長い距離を走れます。その状態であれば、グレードの高いレースに臨む際、より競争心が高まります。さらに、心身ともに健全であればより長く山で楽しむことができます。僕が走る一番の目的は「山で楽しむこと」なので、「WIN THE LONG RUN」とは僕にとって、「健全であること」ということになると思います。

──ウルトラトレイルランにおける「WIN THE LONG RUN」とは?

グザビエ ウルトラトレイルランでは必ず予想外のシチュエーションに出くわすので、その都度、解決策を見つけなければなりません。ルーティンなんてなく、毎回「発見」と「冒険」があるのがウルトラトレイルの魅力です。そうしたレースに参加し、結果に対しても自分自身に対しても「勝つ」ためには、自然を楽しむこと、身体の変化を楽しむこと、より賢くレースを進めるためのレシピを見つけること、できるだけ疲れない方法を見つけることが大切になってきます。

──最後に、一般的なランナーに向けてのアドバイスをお願いします。長い距離を走るために必要になってくる技術、トレーニング、メンタル、装備について、お考えを聞かせてください。

グザビエ トレイルランのいいところは、「たいそうな装備は必要ない」ところだと思っています。シャツとショーツと履き心地のいい靴さえあれば、遠くまで楽しみながら走ることができます。レースの時もトレーニングの時も、川の水を飲んだり、食べられる植物を見つけたり、自然の中にいるんだからそれを満喫しない手はありません。

アドバイスを付け加えるとしたら、食事の管理です。2、3の食事のテクニックを取り入れれば、効果はすぐにでも出ますし、身体的な充足感を、ランニングの最中だけではなく、リラックスしている時や寝ている時にも感じられるようになります。それを手に入れることで、無理せず、長く走り続けることができるようになると思います。

Xavier Thévenard(グザビエ・テベナール)
スキー、マウンテンバイク、カヤックにおけるトレイルランナー兼スポーツコーチ(フランス|ドゥー拠点)。ランニングにおける厳しい教育により鍛えられ、フランスジュニアチームのメンバーに。クロスカントリースキーの記録保持者(185 ㎞ in 10 時間 59 分)。4つの主だったウルトラトレイルランニングの大会(OCC / CCC / TDS / UTMB)で初参加にもかかわらず、勝利を収めたただ一人のアスリート。

TEXT: Tomonari Cotani
PHOTO: Yusuke Kusaba