片岡千之助 カラダ

カラダからパワーを、
歌舞伎座全体へ

初お目見えが3歳、初舞台は4歳。そして今は19歳。すでになんべんも檜の板を踏み、苦楽を味わい、万雷の拍手を浴びてきた。歌舞伎役者、片岡千之助。伝統と格式が息づく梨園きってのホープだと目される。
注目を集めるのも無理はない。父は女形で幅広く活躍中の片岡孝太郎、そして祖父は大名跡にして人間国宝の十五代目片岡仁左衛門。名家を継ぐ人でもあるのだ。きっと重圧もひとしお。なのになぜだろう。舞台が楽しくて、踊りも楽しい。ケレン味なくそう言い切れる。大入りの客席を酔わせるカラダには、間違いなく才と稽古が詰まっている。

普段の暮らしの中でカラダがいきいきする瞬間は?

踊っている時です。振りを覚えなければいけない最初の段階では、まだカラダはいきいきしないのですが、少しずつ振りを覚えて、カラダが音に反応するようになってきたら楽しさが湧き上がってきます。そこに行き着くまではすごく大変なんですけどね。まずは、頭で考えてカラダを動かす。やっていくうちに自然とカラダが勝手に動き出します。そうすると、逆に頭で考えても振りを思い出せなくなってきて。そうやってカラダで覚えることが基本です。

初お目見得が3歳、初舞台が4歳の時ですが、最初舞台に立ってなにを感じましたか?

ただただ舞台に立っているその瞬間を楽しんでいました。お客様から拍手をいただくことがとにかく楽しかった。4歳の初舞台で花道に出ていく瞬間、本当はダメなんですけど、楽しくて笑ってしまって。舞台に対するいい意味での緊張感とワクワク感はその時からずっと変わらないです。

いつから自分のカラダのことを意識し始めましたか?

ちょっと難しい演目をやらせてもらうようになって、筋肉が追いつかないと感じた時にカラダのことを考えるようになりました。何度も稽古して慣れていくのですが、未だに1日稽古しただけで筋肉痛になります。静の動きの女形と、動の動きの立ち役で、カラダへの意識や筋肉の感じ方も違って。女形は重心を低くして、見えない後ろ足も基本的にずっと内股。重心も後ろ足にぐっとかかって、前の足はほぼ浮いている状態だったり、辛い体勢をずっと維持するんです。逆に立ち役の激しい動きになると、全ての動きが短距離走のような感じで、カラダの使い方が全然違うなと感じます。でも、どちらをやっていてもカラダがいきいきします。

普段はどんなトレーニングをしていますか?

ほぼ稽古です。でも大学のジムのランニングマシーンで走ることも多くて。体力がないので長く走ることが苦手なんですが、もっと違う動きができるようになるかもしれないので、今一番そこを鍛えなきゃと思っています。心にあるモヤモヤや悪いもの、なにかをカラダの外に出すイメージがあるので、汗をかくことが大事だと思っていてそのために走ることもあります。とはいえ、やっぱり歌舞伎の筋肉ってとても特殊なので、とにかく稽古をしないと鍛えられないと思います。

踊るうえで特に意識していることは?

師匠に「胸の中央に目があると思って踊れ」とよく言われるんです。その目で客席の3階を見ろと。そうすると動きも大きく見えますし、自分の踊っているパワーを歌舞伎座全体に伝えるために、その感覚はとても大事にしています。歌舞伎にはいろんな衣装があって、それによってカラダの見え方も変わるかもしれませんが、基本は自分の生身のカラダ。とにかくそこは絶対に変わらない。歌舞伎界で踊りの神様と言われている6代目尾上菊五郎さんは、裸でお稽古をされていたり、いかに生身で表現できるかを追求されていたんです。

先人たちの踊りを見て研究することが多いのですか?

そうですね。いろんな方の映像を拝見しますし、そうすると自分のカラダの癖もわかってきます。同じ演目でもやる方の癖が出て全く違うものになるので、それぞれの回り方や足の置き方、音の取り方をいいとこ取りしたい。自分の映像を見ると、自分ではこう動いていると思っていても、現れているものは違ったりする。まずは基本の動きができるよう心がけているので、癖は極力直したいと思うのですが、直すことだけに固執するよりは、カラダがいきいきするような踊りを最終的にはやりたいと思っています。

祖父・片岡仁左衛門さんと連獅子で共演していますが、その時に祖父と自分のカラダの使い方に違いは感じましたか?

全然違いますね。祖父独特のカラダの使い方、踊り方があって。祖父はとにかく観客を一瞬で惹きつける力がとてつもなく強いのでとても尊敬しています。祖父とは小さい頃から相性がよくて、なぜか呼吸や目を合わせる感覚が合うんです。だから一緒にやっていても、いい意味で相手のカラダのことをそこまで気にしなくていい。自分の踊りに集中できますし、1+1が2以上になる化学反応があると思っています。

カラダと心にはどんな繋がりがあると思いますか?

カラダと心には相互作用があると思います。踊っていると、たとえ落ち込んでいる時でも集中できるので、ほかの考え事はその瞬間はなくなっている。僕は、そもそもひとつのことに集中することが苦手で、いろんなところに気持ちが持っていかれてしまうんです。それでいろんな考え事をして変に悩みを抱えてしまったりもするんですけど、踊っている時やお芝居をしている時、大好きなサッカーをしている時は、それに没頭して集中できる。語弊があるかもしれませんが、その状態は精神的にすごく楽なので、落ち込んでいる時ほど舞台に早く立ちたくなります。

「踊り」というひとつのことに集中している時、カラダはどんな状態になっていますか?

その世界に入り込んで無になっている状態の自分もいるし、それを俯瞰している自分もいるんです。お稽古の時から無心になれる状態でいられるとすごくいい。舞台に立つ時はその思考すらなくなっています。一番は、無の境地を超えてからの楽しみを感じながら踊ること。そうなるとカラダもいきいきします。まだ頻繁に得られる感覚ではないのですが、そういう状態になると、舞台を降りたあとも、全力でやりきったと思えます。僕は、たとえば客席にいる人の顔を見たり、その心の状態と別のものが頭の中に入ってくると、意識のサイクルが乱れてしまうんです。そうなるとカラダの動きも雑になる。だから、意識とカラダというのはものすごく連動していると思います。無心になれるように、舞台に上がる前にモチベーションをいかに高めるか、1日1日お客さんも違うので、その一期一会の感覚は大事にしています。

片岡千之助 × カラダ × ASICS

「長く走るのが苦手」と彼は言った。「今一番そこを鍛えなきゃと思っている」とも。それは苦手を克服したカラダが、それまでとは違った動きを可能にするかもしれないから。向上心が旺盛なのは間違いない。しかしその言葉を発した時の楽しげな表情はむしろ、好奇心と呼ぶほうがふさわしい。長く走れるカラダはいかなるパフォーマンスを踊りにもたらすのだろう。そのワクワクがきっと舞台にもつながっている。その足元を支えるのはランニングシューズの名作。安定性とクッション性に優れ、長距離ランサポートをしてくれる。

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PROFILE

片岡千之助

歌舞伎役者

2000年、東京都生まれ。上方歌舞伎の名門松嶋屋のホープとして、立ち役と女形をともに積極的に演じる。現在は大学に通いながら稽古に励み、オフの日はサッカーやランニングも。昨年末は親子三代で『義経千本桜』に揃い踏みを実現。