川内優輝 カラダ

心の限界の先には、
未知のカラダと
走りがある

とにかくよく走る人だ。たとえば2015年には、年間でフルマラソンを15回も。しかも当時の職業は定時制高校の事務職員、つまりアマチュアである。独力でトレーニングやピーキングの方法を考案し、体力と技術を向上させ、やがて世界を舞台に栄冠をつかむ。2018年4月、ボストンマラソン優勝!間違いなく、日本中の市民ランナーに夢を与えた。
その後はプロ転向。しかしそのオールアウトな走りのスタイルは変わらない。年々、スピード化が進むマラソンで常に首位集団に喰らいつきたとえ遅れをとっても粘って猛追。尽きぬスタミナ。タフな足腰。折れぬ心。そのカラダの秘密。

普段の暮らしの中でカラダがいきいきする瞬間は?

走っている時です。妻や友達と話しながら走っていると、時間を忘れてしまうくらい楽しい気持ちになってどんどんカラダがいきいきしてきます。私は1週間のうち5日間、90〜100分、20kmをベースとしたジョギングをトレーニングとしているのですが、それはいかに楽しく走れるかに注力する。ずっと全力だと心もカラダも悲鳴をあげてしまうので、やらなければいけない練習だけど、苦しむ練習じゃないと割り切っています。でも、残りの2日はレースに出て追い込む。レースに出すぎだと言われますが、すごく刺激を受けて、ジョギングとは違った楽しさを感じています。

レースに挑む時のカラダと心はどんな状態ですか?

カラダが万全な状態って、心がスッキリしている時なんですよね。心が重いとカラダも重くなってきて「今日のレース大丈夫かな?」なんて思うこともあって。そういう時は、レース前のルーティーンでやっているストレッチをしたり、カラダに「今日はレースだぞ」という刺激を入れて、心をレースに持っていきます。レベルの高いレースでライバルと競り合いをしている時は、ジョギングでは得られないくらいの集中感を感じます。私はある程度坂やカーブがあるテクニカルなコースが好きなのですが、想像した通りにカーブを切れたりすると「今すごくいいショートカットをしたな」みたいな楽しさもあって。レースの時はそうやって頭を使って、考えすぎるくらい考えることも多いです。ただ、最後の数kmはそうはいかない。苦しくてなにも考えられず、もうカラダに頼るしかなくなります。本来であればカラダの動きを意識したほうがいいのですが、カラダが覚えている動きを無意識の状態で出すしかない。だから、苦しい時間をなるだけ短くして、少しでも意識がある状態を長くできればと思っています。

川内さんの粘り強い走りを支えるものはなんですか?

経験です。苦しくてもずっと粘っていたら最終的にはいい成績をおさめられたとか、苦しい場面でやめてしまいたいと思っても、1秒でもここで頑張れば速くなるという過去の成功体験が心の支えになっています。夏場は指が痺れてきたり、硬直してきて怖くなることもあったのですが、最近は「これを治したければ、1秒でも速くゴールするしかない」と思っています。だからやっぱりカラダだけだとマラソンってできなくて、心もすごく大事。心の限界の先に一歩でも行ければ、カラダのパフォーマンスも上がりますし、心のブレーキがかかってしまった時にこそ、まだ行けるはずだ、前だって行けたはずだと心で上乗せできたら、その力で勝てるということもおおいにあると思います。

強靭な精神力が必要とされますが、それでも折れそうになってしまうことはありませんでしたか?

失敗体験ももちろんありますよ。普段だったら動くはずだったのになんで?と思うこともありました。小学5、6年生の頃から、自分の走りや、失敗の原因を分析して記録しています。どういう練習を積んできたか、このコースを走った時どういう心の状態だったかなど、20年分くらいの走りを思い出せるようになっていて、分析と改善を重ねてレースに挑んでいます。そういう意味では、成功体験も失敗体験も私にとってはすごく大切です。

多くの海外トップランナーと走ってきましたが、強い選手と走る時に意識することは?

状態がいい選手って、その雰囲気が表情にも出ていて。そういう選手を見つけて、その後ろを走って、動きをコピーするようにしています。つまり相手によって自分の動きが変わる。そうするとリズムが安定してきて走りが楽になってくるし、ある種ランナーズハイ状態になって、距離もスピードもタイムもペースも全部忘れて、その人をマークすることだけに集中できます。自分自身と戦うというよりは、他人ありきで競り合うのが好きなんです。そうやって走りながら、ここで全力を出して負けてもそれは自分の実力不足だと思えるところで腹を括って勝負をかけていく。頭をフル回転させて、常に勝負どころを見極めています。

驚くほど短いスパンで多くのレースに出場されてきましたよね。どうやってカラダを休息させ、回復していますか?

温泉やサウナで交替浴をすることです。極限までカラダが張ってしまうと、マッサージや鍼にも行きますが、温泉だけで2週間〜1ヶ月治療に行かない時もあるくらい。途中で失速してしまったレースは、変なカラダの使い方をしてもがきながら走っていたということなので、タイムのわりにダメージが残る。逆に最高の走りができてカラダの極限まで力を発揮した時も、その瞬間はテンションがあがっているからわからないけれど、急に疲れがどっと襲ってきたりするので、調子が良い時こそ気を抜かずにケアしています。海外に行く時は、なるべくバスタブ付きの部屋をとって、そこに入浴剤を入れています。お湯につかると心もほっとしますし、汗をかくことでカラダの中にこもっている水分を排出してシャキッとさせています。

シューズを選ぶポイントは?

アップシューズはクッション性と安定性。練習の際はGEL-KAYANO、GT-2000のような厚底のシューズをよく履いています。海外のトップ選手も底の厚いシューズで練習している人が多いんですよ。レースの時は地面を思い切り蹴れる薄いシューズ、SORTIE MAGICをずっと履いています。中側部のトラスティックが硬くてすごく蹴れるような感覚がありますし、ソールが地面を噛んでくれるので気に入っています。

川内優輝 × カラダ × ASICS

伝説的市民ランナーからプロへ。時に楽しさを追求しながら、時に矢のようにライバルを仕留めながら、先端を走り続ける彼は言う。「最後はカラダに頼るしかない」。故障や失敗を経てきたからこそたどり着いた、カラダを守りながら強さを増してくためのシューズ。クッション性と安定性を兼ね備えたそれを味方に、彼は知性と肉体性を最大限に発揮する。スピードにのり、軽やかに、力強く、彼は世界を走り抜けていく。

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PROFILE

川内優輝

プロマラソンランナー

1987年、東京都生まれ。2009年に埼玉県庁に入庁し定時制高校の職員でありながら、練習を積み日本を代表するランナーに。14年アジア競技大会銅メダル、18年ボストンマラソン優勝など世界で活躍。フルマラソンで79度のサブ20(2時間20分以内)という世界記録の保持者でもある。今春よりプロランナーに転向。