自分に合う一足を見つけようと、時間をかけてスパイクを選んだ人も多いのではないでしょうか? そんなこだわりのスパイク、皆さんお手入れはどうしていますか? スパイクを長く愛用するためには、日頃のケアはとても重要です。
そこでヴィッセル神戸でマネジャーとしてホペイロ(用具担当)を務める荒井琢也さんに、お手入れが必要な理由やケアの仕方などを伺いました。
試合直後にケアするスパイクは30足以上
――荒井さんのお仕事であるホペイロについて教えてください。
チームによっても違いますが、僕の場合は選手の試合用スパイクとユニフォームのケアや管理を担当しています。試合のある日は6時間前にはスタジアムに入って、選手たちのスパイクとユニフォームを並べて最終チェックし、試合が終わったら、使ったスパイクなどをすぐにケアします。選手たちが気持ちよく、全力で試合に臨めるように準備するのが、僕の仕事だと思っています。
――試合直後にお手入れをするとなると、ナイターの時は遅くなるということですか?
そうですね。天候やピッチの状況にもよりますが、試合後はスパイクがドロドロになることも多いので、汚れを落とすだけでも1足5~10分。試合中にスパイクを履き替える選手もいますから、毎試合30足ほどをケアします。すべてが終わるまでに数時間はかかりますが、早くケアをしたほうが汚れも落ちやすいので、なるべくその日のうちにケアをしています。
自分の思い通りの動きにつながる、スパイクのケアが重要な理由

――毎試合、ケアをするとなると大変ですが、それだけお手入れが重要ということでしょうか?
はい。スパイクのケアが重要な理由3つあります。
ひとつ目はきれいなスパイクは見た目も気持ちよく、選手たちのモチベーションをあげてくれることです。実際「めっちゃきれい。これで頑張れるわ」と言ってくれる選手はとっても多いです。
ふたつ目はスパイクの寿命が伸びること。ハードにプレーするトップ選手のスパイクでも、しっかりとケアをすれば半年以上、持つ場合もあります。
みっつ目は芝や土などで汚れた状態にしておくと、靴の表面が乾燥して、硬くなってしまうことです。スパイクが硬いと履いていて違和感もあるし、動きづらくなります。ケアをすればやわらかい状態をキープできますから、足に馴染みやすいし、動きにも影響があります。スパイクの状態はパフォーマンスに影響をするということです。
選手も実践、練習後のおすすめケア方法
――ケアがとても大切だということがわかりました。試合用のスパイクは荒井さんが担当されていますが、練習用のスパイクは誰がケアしているんですか?
ヴィッセル神戸では練習用スパイクは選手個人でケアすることになっています。佐々木大樹選手はしっかり乾かすところまで自分で気を配っていますし、山口蛍選手は練習後、毎回隅々まできっちりケアされていてすごいなと思います。
――練習が終わって疲れていても、選手自らケアしているんですね。
ただ、練習や試合後はヘトヘトに疲れていますから、一般の方が毎回ピカピカにするのは大変だと思います。お手入れをする余裕がない日は、せめて濡れタオルでさっと拭いて汚れを落とし、スパイクの中に消臭剤や乾燥剤を入れるぐらいはするといいでしょう。そして、週1回ぐらいはきちんとケアをしてください。お手入れに慣れてきたら、徐々に回数を増やすとベストですね。
ホペイロ荒井さん直伝、スパイクのお手入れ方法
実際、荒井さんはどんなケアをされているのか。今回はアシックスのシューケアセットⅢを用いて解説いただきました。

1.靴ヒモを外す

ベロの部分も意外と汚れています。細部までしっかり汚れを落とせるように、まずは靴ヒモを外します。靴ヒモは白なら塩素系漂白剤、色がついていたら酸素系の漂白剤に浸け込んで、きれいにします。
2.汚れを落とす

スパイクについた土や芝を払ったら、布に靴用クリーナーを出します。一度に出すクリーナーの量は大豆粒ぐらい。磨きながら少しずつ足していくようにしましょう。布は使い古したタオルなどで構いません。
クリーナーを含ませた布で、スパイクの汚れを落としていきます。ステッチは縫い目に沿って動かすときれいになります。マークなどの部分もきちんと磨いておきましょう。
3.オイルを塗って保湿する

汚れが落ちたら、天然皮革の場合はミンクオイルで革の保湿をします。適量を手の指にとって、細部にまでしっかりと刷り込みます。
4.クリームでツヤを出す

次に輝きを出すためのクリームをスパイクに出します。全体に一度につけるのではなく、つま先、かかとなど、少しずつ行っていくようにしましょう。
クリームをつけたら、均一に馴染むように、念入りにブラッシングします。
最後はクロスで全体を磨いて終了です。

手前がケア後。ケアをしていない奥と比べるとその差は歴然! 革もしっとりとやわらかくなりました。
どうしても落ちない汚れは水洗い、その後のケアをしっかりと
――お手入れの注意点はありますか?
つま先、ステッチ、かかとは汚れやすいので、特に念入りに磨いてください。また、クリーナーは今回使ったアシックスの商品のように、保湿成分が入っているものを選ぶといいでしょう。ただ、どうしてもクリーナーでは落ちない汚れもあるので、たまに水洗いをしてください。
――レザーなのに水洗いしてもいいのですか?
はい。洗いっぱなしで放置をすると乾燥してしまいますが、その後のケアをしっかりとすれば問題ありません。本革のスパイクは革用の石鹸を使い、広い部分は馬毛のブラシ(アシックスのシューケアセットⅢは豚毛ブラシ)で、ステッチなどの細かい部分は歯ブラシで汚れを落とします。人工皮革の場合は、漂白剤を入れたお湯に30分ほど漬け込んでから洗うといいでしょう。洗った後は、タオルなどで水気を取り、ミンクオイルを全体に塗って、シューズドライヤーで乾かせば、しっとりとした状態をキープできます。
――シューズドライヤーがない人はどうしたらいいでしょう?
温度が低いと乾きにくいので、日向に置いたり、扇風機を当てたり、暖房の効いた部屋に置いたりするのがいいでしょう。ちなみにスパイクを保管しているヴィッセル神戸の用具室は、真夏以外はずっと暖房をつけています。また、新しいスパイクが硬くて痛いというときもお湯に浸けることがあります。40~50℃のお湯に浸けて、革がやわらかくなったところで、濡れたまま履くと足に馴染みやすくなるんです。少し荒療治ですが、プロの選手たちもやるテクニックです。足に馴染ませたら、同じように乾かす前にミンクオイルを塗ってください。
※このお手入れ方法は一例です。サッカースパイクには、そのシューズによってさまざまな素材が使用されておりますので、一般的なお手入れ方法は、アシックスHPでご確認ください。
保管するときはシューキーパーで潰れないように

――他にスパイクを快適に履くためのポイントはありますか?
保管するときはシューキーパーを入れておくといいでしょう。持ち歩くときもシューキーパーを入れた状態なら、他の荷物と一緒にバッグに入れても、潰れる心配がありません。
スパイクはプレーを左右する大事なものです。長く良い状態を保てるようにお手入れすることも、選手にとっては大切なことです。皆さんも、きれいなスパイクで気持ち良くプレーをしてほしいですね。

Photo:Tetsuya Fujimaki
Text:Junko Hayashida(MO'O)