ロシアで、その男が挙げたゴールは、得意の右足から繰り出されたものだった。

日本サッカー史上初のベスト8をかけて挑んだベルギー戦。ペナルティーエリアの外、やや左でボールを受けた男は、迷うことなくその右足を振り抜いた。ボールの中心を捉えたシュートは、無回転のまま、ベルギーが誇る名手、ティボー・クルトワが伸ばした手のわずか先をすり抜け、ゴール右隅に鋭く突き刺さった。その低く美しい弾道のゴールに、日本のサポーターたちは熱狂し、世界のサッカーファンが驚いた。その瞬間、僕たちは、日本代表が初めてベスト8に進出する姿を、頭の中のキャンパスに描いていたはずだ。

そんな乾貴士選手の右足は、日本でも、ドイツでも、スペインでも、いつだってシンプルな白いシューズに包まれていた。

乾選手とアシックスとの出会いは小学生の時

乾選手とアシックスとの出会いは小学生の時


乾選手とアシックスのシューズとの出会いは、小学生の頃までさかのぼる。

「小学生の時のコーチに勧められて、アシックスのシューズを履いていました。それがきっかけですかね。その頃は『インジェクター2002 』が流行っていて」

乾選手に対して、世間は「サッカーを純粋に楽しむサッカー小僧」のようなイメージを持っているかもしれないが、意外にも、子どもの頃は、サッカー以外のことに関心が向く時期があったという。

「サッカーばかりやっていたわけじゃなかったですよ。当時は地元のクラブチームに所属していて練習も毎日あったわけじゃなかったので、友達ともよく遊んでいましたね。特に小学校の高学年になってからは、サッカーが好きではなくなった時期もあったので、野球をやったり、ゲームをやったりっていう時期もありました」

一度はサッカーを嫌いになった時期があったという乾選手。では、彼はどのようにして、再びサッカーを楽しむようになっていったのだろうか。

「やっぱり楽しい時ばっかりじゃないし、どちらかというと、しんどい時の方が多いんで。でも、上手くなっていけば、その分だけ楽しめる。そうなれるように練習するしかないんですよね。そうすればいつか楽しくなる。大人になってもそれは変わらないと思います」

乾貴士がこだわり続けるスパイクへの3つのこだわり

乾貴士がこだわり続けるスパイクへの3つのこだわり

こうしてサッカーとともに成長を続け、世界で活躍をするようになった乾選手。その足元を、長きにわたって支え続けているのがアシックスのスパイクだ。現在、彼が履いている『DS LIGHT X-FLY 4』について本人に話を聞くと、大きく3つのこだわりを挙げた。

(1)軽さを重視

乾選手は得意のドリブルを生かすために、軽いスパイクであることが、シューズ選びの最も重要なポイントだという。

「僕のプレースタイルは、軽さがすごく重要なので、『DS LIGHT』が出てきて、『すごい軽くて履きやすいな』って思ったんですよね。スパイクが重いと、しんどくなるんですよね、気持ち的に」

(2)ソールの屈曲性

軽いだけでは、乾選手の特徴である俊敏性を最大限に活かすことはできない。そのためにもう一つ重要なポイントがソールの屈曲性。DS LIGHT X-FLY 4のアウターソールは、軽量性に優れたナイロン+ウレタンソールを搭載。中足部の左右非対称(リブの高さ)なリブ形状が剛性を確保しながら内ネジレのみを許容している。この点についてもプレー中の効果をこのように語った。

「ソール(が柔らかいの)は大事じゃないですか。爪先立ちすることが多い ので、そこでグッと力を入れることができれば、ちょっとでも早く動けるし、かなりいいことだと思います」

(3)フィット感

そして、乾選手がスパイクに対して強く求めているのが、フィット感だ。

「このシューズの素足感覚というか、薄めで柔らかい感じがすごく好きですね。ボールタッチをする時の感覚が合わないと、プレーにも影響してしまうので、その感覚はとても大切にしています。DS LIGHTシリーズは、アウトサイドからインサイドに切り返した時も、足がブレる感覚がないですね」

もともと、『DS LIGHT』シリーズは、軽さが人気のアシックスを代表する一足だ。今回の『DS LIGHT X-FLY 4』も、これまで同様、軽量性を重視しつつ、さらに、乾選手のような繊細なボールタッチでゲームをコントロールするプレーヤーのために、これまで以上にフィット性の高い設計で、“素足感覚”を追求したモデルとなっている。

海外のピッチでプレーをして感じる、スパイクの重要性

活動の場をスペインに移してからも、乾選手のプレースタイルは変わっていない。しかし、ピッチの状態が日本と全く異なり、滑りやすいと言われる海外では、彼の最大限の力を発揮するために、スパイクに求められるものも変わってくるという。

「固定のスパイクが、ターンもしやすくて好きでずっと履いていたんですが、海外の芝生だと固定ではどうしても滑ってしまって…。海外でプレーするようになってからは、試合で履くスパイクはミックスを選ぶようにしています。練習は固定のままですが。試合のときに滑ってしまうと、せっかくのチャンスがふいになってしまうこともありますから」

なお、前述のDS LIGHT X-FLY 4の商品企画を担当する岩田 洋によれば、ミックス式のスパイクは、軽量性とグリップ性の両方が賄えるという。

変わらぬスパイクへのこだわりとともに見据える未来とは

変わらぬスパイクへのこだわりとともに見据える未来とは

中学生の頃から憧れだったリーガ・エスパニョーラの舞台で4年目の挑戦を終えた乾選手は、まだまだその足取りを止めるつもりはない。日本人選手の最多出場記録も更新中だ。さらにこれまで11得点をあげ、日本人の最多得点も更新し続けている。もちろん、その中には、あのカンプ・ノウでバルセロナから挙げた2ゴールも含まれている。

そんな乾選手に、今後アシックスに期待していることを聞くと、このように答えた。

「いや、本当に、もう今のままで。ただそれだけですね」

進化し続ける乾選手だが、シューズに対しては、これまでと変わらない安心感を求めている。アシックスのシューズに足元を支えられながら、彼の挑戦はこれからも続いていく。

乾 貴士

1988年滋賀県生まれ。地元のフットボールクラブを経て、2004年に野洲高校へ進学。2005年の全国高校サッカー選手権では中心選手として優勝に貢献。卒業後は、横浜F・マリノスへ加入後、セレッソ大阪へ移籍。2011年には、ボーフム(ドイツ)へ移籍。その後、フランクフルト(ドイツ)でも活躍し、2015年8月にSDエイバル(スペイン)へ。ベティス、アラベス(ともにスペイン)でのプレーを経て、現在は再びSDエイバルに活躍の場を移している。

TEXT: Taisuke Segawa
PHOTO: Chiyoe Sugita