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「神は細部に宿る(God is in the details)」と言ったのは、20世紀のモダニズム建築の巨匠ミース・ファン・デル・ローエだが、彼は人類史に刻まれるレベルの格言を、実はもうひとつ残している。「Less is more」だ。この言葉は後に、同じくドイツ出身の伝説的工業デザイナー、ディーター・ラムスが唱えたデザイン哲学、「Less, but better」へと変奏されていくことになる。

 

「少なく、しかしより良く」というこの視座は、ものづくりのさまざまなシーンにおいて、「環境への配慮(サステイナビリティ)や効率性(エフィシェンシー)」を念頭に置くことが不可欠となった21世紀の今日、より一層、重要度を増していると言えるだろう。

 

アシックスのアパレルデザインにおいても、こうした「Less is more」や「Less, but better」が言わずもがなの基底になっていると、炭本育生(Apparel Creative Director)は語る。

 

「一般的なファッションの場合だと、『ここにこういった装飾を入れたら、こう見える』というプラスの思考がデザインの段階で働くと思います。一方でスポーツアパレルの場合、プロテクトという観点を抜きにすれば、もしかしたら裸が一番、パフォーマンスを高めてくれるかもしれないわけです。からだの動きを抑制しないためには、軽い方がいいし、腕や足を可動させやすいパターンや縫製にしなければならない。そうした引き算から始まっているのが、スポーツアパレルなんです。その意味ではまさに、Less is more、Less, but betterです。そのあとに、for functionと続きますが」

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炭本育生 | Ikuo Sumimoto

長らくスポーツアパレル業界に身を置き、アパレルデザインやブランド戦略に携わる。最近はゴルフに夢中。でも、蚊が嫌い。

  

そうしたスポーツアパレルの意味合いが、近年、大きく変わってきたと炭本は続ける。

 

「現代人のスポーツに対する認識は、ここ最近、大きな変化を見せていると思います。かつては、競争に勝つことや結果を出すことがスポーツの意義そのものでしたが、いまは、フィットネスや個人レベルでの健康を意味するものへと定義が広がっています。

 

その結果、以前は休日にするものだったスポーツが、出勤前にランニングをしたり、仕事帰りにジムへ行ったりと、人々の生活の中にナチュラルなかたちで溶け込むようになりました。運動するための靴だったものが、ファッションの一部、つまりは自己を表現するためのアイデンティティに欠かせないものとなり、ランニングやヨガをすることで、『自己管理ができる人』というセルフブランディングにつながるようになったのです」

 

コンセプトは“アダプタブル”

 

ライフスタイルにおけるスポーツの位置づけが変わったのであれば、スポーツアパレルの定義も、根底から見直す必要があるだろう。実際、アシックスのトレーニングアパレルは、2017年秋冬シーズンよりデザインコンセプトが一新された。

 

「あくまでもトレーニングアパレルなので、トラック&フィールドやジムで着たときの機能性は、担保しています。一方でデザイン面では、ピッチでもジムでもストリートでもクールに見えるデザインを目指しました。言葉にするなら『アダプタブル(順応する、適応する)』。さまざまなシーンに順応する機能性とファッション性の融合を、今後、アシックスのトレーニングアパレルでは追求していきたいと考えています。

 

『アダプタブル』は、『スタンダード』と言い換えることができるかもしれません。試合や競技といったコンペティションにかかわる部分は、当然、選手専用のウエアを身に纏っていただくわけですが、それ以外の全部、つまりはスタンダードな部分をすべてカバーするアパレル、というのがコンセプトなわけですから。サッカー選手にたとえて言うなら、移動時やウォームアップ中に着てもクールだし、ベンチで着ていても映えるし、そのまま街に行ってもかっこいい。そんなトレーニングアパレルを、今後アシックスは提供していくことになります。

  ファッション寄り、ストリート寄りのアパレルデザインをやっているように思われるかもしれませんが、あくまでも本質はアスレチックの部分。そのバランスやイメージの『スタンダードづくり』を、2020年に向けて完成させていかなければなりません。そう思うと、残されているのはあと2シーズンなんです」

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「アダプタブル」、あるいは「スタンダード」といった言葉の裏には、アシックスの冷静沈着な自己認識が見え隠れする。その点を、炭本はこう語る。

 

「シューズにおいては既に確立されている『アシックスらしさ』というものを、アパレルにおいても醸成したいんです。では、『アシックスらしいたたずまい』とはどういったものなのか。その答えを、今後数シーズンかけてお見せしていくことになるわけですが、私個人の好みでいうと、『違いをつくるヤツら』に選ばれるブランドでありたいと願っています。たまに、みんなで仲良く同じ遊びをしていても、急にルールを変えるヤツっているじゃないですか。でもそれがすごくおもしろくて、どんどん進化していく……。そんな、たとえ小さなエリアでもリーダーとなりうる人たちに、『アシックスってかっこいい』って言ってほしいんです。

 

どのブランドが世の中的にかっこいいとか、そうした刷り込みのないまっさらな子どもたちが見て、アシックスが一番かっこよく見えたら最高だなと。一夜では変えられないかもしれないけれど、将来的には、必ずそんな価値観を広く醸成したいと思います。

 

そのためには、2020年は、非常にいい機会だと考えています。

 

アシックスがつくるトレーニングアパレルを、フォー・ザ・アスリートと捉えるのか、フォー・ザ・ストリートと捉えるのかは、正直、コンシューマーの感性次第だと思っています。それは、ぼくらにしてみたらアウト・オブ・コントロールでもある。だからこそ、機能性やクオリティといった、保証しなければならない部分は一切妥協をせず、それでいて、『トレーニングアパレルといっても、アシックスならこういうところも行けちゃうよね』といった、既成概念を打破してもらえるようなプロダクトになればと思っています。

  そのためのミニマルデザイン、いわばLess is moreなわけで、それこそが、スポーツがよりライフスタイルに溶け込んでいくであろう2020年以後に必要なウエアだと考えています」

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2017年秋冬モデルから、トレーニングアパレルには、ヘキサゴン(六角形)をモチーフにしたラインや、アシックススパイラルと組み合わせた「アシックスヘキサゴンロゴデザイン」が登場。今後の「スタンダード」をつくりあげていく上で、重要な役割を担っていくことになる。


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Text by Tomonari Cotani Photo : Koutarou Washizaki