アシックスの会員サービス「OneASICS」では、会員限定のさまざまなスペシャルイベントを企画。今回はランニングシューズ「GEL-KAYANO 30」の発売を記念して、「GEL-KAYANO」シリーズの生みの親である榧野俊一と、最新作の開発者である中村浩基のトークイベントを開催。イベントで明かされた貴重な開発秘話の一部をレポートします。

トークイベントの写真

営業終了後の「アシックス 原宿フラッグシップ」で開催された今回のイベントには、抽選で選ばれた12人が参加。会場に着いた参加者の方々は「GEL-KAYANO」の歴代モデルが紹介されたパネルやモニタが設置された、いつもとは違うショップの雰囲気を楽しみながら、スタートを待ちます。

初代モデルのデザインはクワガタをイメージ

そして「GEL-KAYANO」開発者の2人が登場。
まずは榧野が「GEL-KAYANO」の誕生秘話を貴重な資料とともに解説します。

日本のランナーにも愛用者の多い「GEL-KAYANO」ですが、1993年に発売された初代モデルは、アメリカ向けの商品として開発をされました。

「アメリカの担当者から、これまでと同様に機能的で最先端のテクノロジーを搭載しながらも、全く新しいデザインイノベーションを起こせと言われたのが、開発のきっかけでした」

当時のアメリカでは、ランニングだけでなく、フィットネス人気も高まっていたことから、榧野はジムでも、ロードでも、そして街でも履ける万能なランニングシューズを作ることを決意。ところがどんなデザインを提案してもすべてボツ。考えたデザインは50以上にものぼったそう。

デザインの糸口が見えず煮詰まっている榧野を見かねて、アメリカの担当者が連れて行ってくれたのが日本食レストラン。そこで出たタコの酢の物がデザインの突破口になりました。

「昔のバスケットボールのソールは真っ平で滑りやすいものが主流でした。その欠点を補うために、1952年に発売されたのが、タコの吸盤をヒントにしたシューズで、当時は先進的な商品だったんです。そこで自然界にある機能的なデザインをシューズに活かそうと考えました。ランニングだけでなく、さまざまなシーンで使うことを想定したGEL-KAYANOには、力強い動きにも耐えられる頑丈さが必要。そこで頑丈なイメージをもつ自然界の生き物は何かと考えて思いついたのがクワガタでした」

アッパーはクワガタの堅牢なボディをイメージ。またさまざまな部分にクワガタのハサミを思わせる鋭角でギザギザのモチーフを盛り込みました。

「実は左右を逆にすると、靴底の模様がクワガタのハサミに見えるようにデザインしているんです。ただ、クワガタがデザインソースだということは、バカにされると思って、ずっと内緒にしていました(笑)」

デザインソースの秘密
ずっと内緒にしていたデザインソースの秘密

こうして初代モデル「GEL-KAYANO TRAINER」が誕生。当時、アメリカで日本語ブームが起こっていたこともあり、シューズには榧野の名前が付けられることになったのです。

GEL-KAYANO TRAINERを履いた榧野
この日、榧野はイベントのためにGEL-KAYANO TRAINERを履いてきてくれた

常に進化し続けるGEL-KAYANOの歴史をおさらい

誕生秘話が明かされたところで、榧野のトークはGEL-KAYANOの歴史へと移ります。

1993年の発売から30年を迎えたGEL-KAYANO。その歴史にはいくつかのターニングポイントがあったそう。

GEL-KAYANO 30年の年表パネル
会場に設置されたGEL-KAYANO 30年の年表パネル

「なかでも一番大きいのは、2000年に発売されたGEL-KAYANO 6です。それまでの5モデルは、機能的ですごいテクノロジーが入っていることを、どうデザインで伝えるかがテーマでした。つまり開発者の好みも活かされていたんですね。ところが6からは明確なみっつの要素でデザインを行うことに決まりました。
ひとつめは初代モデルのようにストーリー性のあるデザインであること。ふたつめは先進的なテクノロジーを活かしたもの。そして、みっつめはランニング時の運動動作を科学的に分析して定量化したもの。つまり6からのGEL-KAYANOは分析により導かれた機能を活用する、科学のデザインということなんです」

他にもマサチューセッツ工科大学と協働して、CO2排出量削減などサステナビリティにいち早く着目した、2012年発売のGEL-KAYANO 18など、数々の名シューズを紹介。

「時代によって、みっつの要素のバランスは変わりますが、アシックスの先進技術を詰め込んだシューズというGEL-KAYANOのDNAは、最新作にも引き継がれています」

安定性と快適性にこだわった新作GEL-KAYANO 30

その最新作の開発を担当したのが中村。今回のイベントでは「せっかくなので、ネットで調べても出てこない、開発のこだわりをお伝えしようと思います」とデザインの細部まで解説。

イベントの様子

GEL-KAYANO 30の開発コンセプトは「安定性と快適性の両立」。
「GEL-KAYANOの歴史の中で大事にしてきた安定性に加え、今の時代に求められている“履いていて心地いい”という快適性も重視することにしました。ただ、この2つは相反する機能で、両立するのはすごく難しい作業でした」

アーチ部分には、高反発のフォームを配置。また過度な倒れ込みを防ぐように、内側のソールには広がりを持たせた設計に。一方で外側はクッション性を重視したデザイン形状にすることで、長距離、長時間走っても、最後まで安定性と快適性を保てるようにデザインされています。

「新作に限らず、GEL-KAYANOの特徴のひとつが、外側と内側のデザインが全然違うということです。ここまで内側と外側のデザインが違うシューズはあまり見ないですね」

中村の言葉を裏付けるのが、ソールのかかと部分。内側と外側のフォームの違いが境界線によって、はっきりと現れています。「この境界線のデザインが格好いいんだよね」と、生みの親の榧野もお気に入りです。

プロトタイプのデザインスケッチ
モニタにうつるサンプル品

中村の説明に合わせ、会場のモニタには研究所での走行実験の分析動画や、プロトタイプのデザインスケッチなど、他では見られないお宝映像が続々と映し出され、参加者も食い入るように見つめます。

トークショーの最後には、応募時に寄せられた参加者からの質問も紹介。
“今回のGEL-KAYANO 30では厚底になって、デザインが大きく変化しましたが、開発部内で反対意見はありましたか?”という質問に答えたのは、中村です。

「長い歴史があるシリーズなので、本当に厚底にするべきなのか、反対というより疑問の声は寄せられました。ただ、科学的な実験データ、そして世界中のランナーの意見を踏まえて、自信を持って発表できるシューズが完成したので、こうしてお目見えすることができました」

GEL-KAYANO 30 詳しくはこちら

こうして約1時間のトークセッションは、あっという間に終了。

最後にはお土産として、榧野による歴代のGEL-KAYANOのスケッチが描かれた特製ポストカードが手渡されました。

特製ポストカードを手渡す榧野
特製ポストカード

「OneASICS」では今後もさまざまなイベントを企画しています。ぜひチェックしてみてください。

OneASICSとは

OneASICS

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Photo:Tetsuya Fujimaki
Text:Junko Hayashida(MO'O)