前後左右上下に対するダッシュ・ジャンプ・ストップなどの3Dな動きを求められるバスケットボール。スピードに緩急をつけた駆け引きや、1時間半~2時間ものゲーム時間に耐えうる持久力も求められるため、他の室内競技と比べても足や腰への負担が圧倒的に大きい。プレーヤーが求めるシューズとはどんなものなのか。アシックスでバスケットボールシューズの開発に関わる、吉田慎平(企画担当)、高野博行(デザイン担当)、前田直俊(開発担当)が解説する。

バスケットボールシューズ選びが難しい理由。

(左から)デザイン担当の高野、企画担当の吉田、開発担当の前田。自らのバスケットボールの競技経験と部活生たちへのヒアリングをもとに製品の開発を行っているという。

さまざまな動作が求められるバスケットボール。プレーヤーがベストコンディションを保ったまま、質の高い動きを繰り出すには、身体能力を高めるだけでなく、どんなシューズを履くかも重要になってくるという。バスケットボール経験者の高野と吉田の学生時代のエピソードをもとに、バスケットボールシューズの特徴を解説してもらった。

――高野さんと吉田さんは学生時代バスケットボールプレーヤーだったそうですが、当時欲しかったシューズとはどんなものでしたか?

吉田(企画担当) 僕の場合は、どんなシューズが欲しいかは漠然としていたかもしれません。「なんとなく自分の足に合うな」と思っていたのは、アシックスでしたね。ただほかのメーカーのシューズも機能面には注目していて、新しいシューズが店頭に並んでいたら、いつもわくわくしながらチェックしていました。

高野(デザイン担当) 僕は吉田とは逆で、結構いろんなメーカーのシューズを履いていました。そのなかで、フロアに近いような接地感覚があり、ステップが踏みやすいのがアシックスでした。ただ、他メーカーに比べると、なんとなくハードな履き心地なのかなと。だから「これにクッション性が加わるといいのになあ」と思っていたんです。

――多彩な動作によって成立する競技だから、靴にもさまざまな機能性が必要なのですね。

吉田 そうなんですよ。バスケットボールでは試合中の総走行距離もすごく長いですし、走りながらジャンプの動作に移行するプレーが基本となります。また対戦相手とのフィジカルコンタクトがあるので、時には自体重だけでなく、相手の体重も支える必要があるシーンも多々あります。

前田(開発担当) アスリートに限らず高校生などの部活生にも言えるのですが、他の競技と比べて身長や体重が大きいプレーヤーが多いこともバスケットボールの特徴ですね。当然シューズへの負担も大きくなるので、他の競技に比べても耐久性をしっかり付与させる必要があります。

吉田 プロのリーグを目指すようなレベルの学生たちは、本当に身体が大きいんです。バスケを始めたばかりの中学生や初心者の方は、「脚にかかる重さの負担が少ない」という点で、シューズに軽量性を求める方が多いです。いっぽうで、競技歴が長くなるに伴ってフィジカルが強くなったり、プレーの強度も高くなったりするため、高校生以上になるとやはり軽量性以外の機能もより重要になってきます。

部活生にとって本当に必要なシューズの機能とは?

NOVA SURGE
高校生の男子プレーヤーへのヒアリングをもとに開発された「NOVA SURGE」。

競技経験が長くなるにつれて、軽量性以外の機能が求められるというバスケットボールシューズ。高校生プレーヤーが求めるシューズとはどんなものなのだろうか。部活生向けの新モデル「NOVA SURGE」について、開発背景を聞いた。

――軽量性以外だと、どんな機能が具体的に必要になるのですか。

吉田 やはりクッション性ですね。特に体格の発達に比例するのですが、ハードなプレーには大なり小なりダメージが伴います。その蓄積が、練習の翌日や試合終盤のパフォーマンスに響いてきます。

――12月より発売する「NOVA SURGE」では、クッション性の優れたソールを採用していますね。

吉田 実は、これには深い事情がありまして。約300人の高校生の男子プレーヤーに調査したところ、アシックスのシューズの機能イメージとして、グリップ性や軽量性、耐久性は高ポイントであったのに対して、クッション性の評価だけとても低かったんです。ですから、新作ではそのイメージを絶対覆したくて、企画担当として開発チームに強くリクエストを出しました。

ジャンプや前に踏み出す動きの衝撃をサポートするため、ソールのかかと部分にゲルが配置されている。

前田 クッション性は、動作による衝撃を緩衝して足への負担を軽減するだけでなく、ステップを踏み込んでからの反発をサポートする働きもあります。ですから「NOVA SURGE」では、ソールのかかと部分に大型のゲルを配置して、よりクッション性を追求し、同時に前足部には反発性の高い素材を使用し、前方により踏み出しやすい構造にしました。

ソールパターンのデッサン風景。

高野 「NOVA SURGE」の“ダイナミックなムーブ”というコンセプトから連想したのは野生動物の躍動感のある動きでした。したがって、ネコ科の動物をデザインのイメージとして設定し、ソールのグリップなどは、動物の肉球をアイディア源として取り入れています。

――自由自在に動き回る動物のように、バスケットボールもプレーの中でさまざまな動作をしますものね。

高野 ジャンプ一つを取っても、ただ単に高く飛ぶだけではなく、跳ねるような動きが複合的に組み合わされたプレーが、10年ほど前からNBAのゲームでもよく見られるようになりました。実際、高校生の試合を見ていても、そういう傾向があると個人的に感じています。ステップワークの種類が年々増えていますから、「NOVA SURGE」では前後左右の平面的な動きだけでなく、跳ねるような動きにも対応できるようなデザインを意識しました。

前田 複合的な動作にもフォーカスするとなると、安定性もやはり欠かせません。ジャンプをするときにしっかり地面を踏み込み、歩幅の広いステップを踏む時にはブレにくいようにソールの構造にもこだわっています。たとえば、中足部の設置面積を従来のモデルよりもワイドにして、かかとから接地した時の体軸のブレを防ぐためにかかとの外側に樹脂製のカウンター(かかと部分を安定させるための樹脂製パーツ)を配置しました。また、ハイカットかローカットかという点では個々に好みがあるものですが、本作についてはアシックスのなかでも高めのカットにしているので、心理的な安心感から足首のホールド感があるシューズを求めるプレーヤーにもおすすめです。

履き心地も見映えもひと味違うシューズができるまで。

カラーシミュレーションを重ねて決定したイエローの「NOVA SURGE」。こちらは2020年1月発売。

新モデル「NOVA SURGE」には、機能面だけでなく、デザイン・カラーリングにもこだわりがあるという。

――NOVA SURGE」は、見た目からも足をしっかりとホールドしてくれそうな印象が伝わってきます。

高野 ソールのクッション性や跳ね返るような動作が視覚からも伝わるように、ボリュームのあるデザインに意図的に設計しています。またソールの厚さについても、前足部は13ミリ、後足部は18ミリと、従来の自社製品に比べてもボリュームを持たせています。

――カラートーンも含めて、今までのアシックスにはなかったようなデザインだなと思いました。

吉田 白と黒は定番カラーとして当初から検討していましたが、残りの1色はデザインチームと色々試行錯誤したんです。

高野 パソコンのモニター上で、CGで店頭のディスプレイに配置してみて「どんな色だったら惹きつけられるだろうか?」と試した結果、イエローベースのデザインになりました。

吉田 アシックスのシューズは特に部活生に履いてもらっていますが、社会人以上の方にも、ぜひ手にとっていただきたいですね。今までのアシックスの良さを残しつつ、ひと味違うデザインのシューズに仕上がったと思っています。

――最後に、シューズを購入する前にチェックすべきポイントを教えてください。

吉田 男子に多く目立つのですが、シューズを選ぶときは大きめのサイズを選ばずに、ジ今の自分のジャストサイズをぜひ選ぶようにしてください。ジャストサイズとは、かかとを合わせて履いたときに前足部に指1本分(約1㎝)くらいのゆとりがあるサイズのことです。

前田 このシューズに関しては、ぜひ試着した時にソールのクッション感に意識を向けてもらえたら。厚みはあるが柔らかすぎない、程よい沈み具合を体感してほしいです。

吉田 また軽くカラダを動かすなど、さまざまな姿勢を試してもらえるとうれしいです。両足とも履いて、ぜひいろんな動作でシューズを試してみて欲しいですね。

TEXT:Nao Kadokami
PHOTO:Katsuyuki Hatanaka