世界最強チームといっても過言ではない至学館大学女子レスリング部。その強さの秘密のひとつが、寮での共同生活だ。栄和人監督は「共同生活で切磋琢磨しながら、仲間意識を持つことが大事」だと言う。生活をともにする中で、後輩は先輩の背中を見て憧れ、先輩はその視線に励まされて、厳しい練習を積み重ねることができる。そんな選手の生活を最もよく知る人、寮母の前田寿美枝さんを訪ねた。

至学館女子レスリング部の自慢は寮母さんの手料理!

選手たちは、午前中の練習が終わると続々と寮に戻ってくる。それを待ち構えているのが、リビングのテーブルにずらりとならんだバイキング形式のランチ。おかずの種類は10種類以上ある。「寮の一番の自慢は、寮母さんの作るおいしいごはん」(川井梨紗子選手)というのにも納得の、おいしそうな匂い。キッチンからは「今、おでんも出るからね!」と元気な声が。寮母の前田さんだ。

「やっぱり、ごはんがおいしいっていっぱい食べてくれるのが一番うれしい。みんなが安心して試合や勉強に集中できるように……そう思っていつもごはんを作っています」(前田さん)

それぞれ生まれ育った環境が違えば、好みの味も違う。そんなことも考慮して、味付けは薄めにして、各々で調整できるように調味料も各種用意。細やかな配慮をしながら食で選手を支えている前田さんにとって、試合を見に行くことは「食べさせているものがあっているか」をチェックする場でもあるという。

「あの子はスタミナ不足かな、もっと肉をたべさせなきゃ、とかね(笑)。私の作ったご飯が選手たちの力になって、身体になって、そして未来を作るわけですから、責任重大だし、そんな食事をつくることができるのはよろこびです」(前田さん)

自慢の寮母さんの手料理

トレーニングと生活をともにして第二の家族になる

前田さんが寮母になったのは、もう10年以上前。女子レスリングのあゆみ、選手たちの成長を一番近くで見守ってきた。

「ここでは高校1年生から大学4年生までの子たちが暮らしています。先輩が後輩たちの面倒をしっかり見てくれるので、私は黒子に徹しています。時々、気になることや心配なことがあると、上級生の子に『ちょっとモーニングでもいかない?』と呼び出して相談することはあります。声かけられた子は『何!?』ってドキッとしているかもしれない(笑)。私にとっては自分の娘たちみたいなものなので、いいことばかりじゃなくて、言うべきことは言う。今わかってくれなくても、いつか大人になったら分かってくれたらいいな……と思っていますし、一緒に考えたり何か行動したりすることで、家族になれますから」(前田さん)

寮母さん

練習以外の時間を自分らしく楽しむのが大切

寮母さんにとって選手たちは娘であるように、寮は選手たちのマイホームだ。「マットの上ではみんな負けず嫌いで真剣ですが、ここではそれぞれの素の顔で過ごしていますよ」と、前田さん。選手たちに練習以外の時間の過ごし方は?と聞くと、過ごし方はさまざま。例えば登坂絵莉選手は「最近ベーグルにはまっていて、休みの時はベーグル屋さんでいろんな味を試すのが好きです」と言えば、土性沙羅選手は「私は、買い物に行ったり、先輩と飲みに行ったり、ライブに行ったり……」とアクティブ派。

「練習の時はみんな集中して気合の入ったモードで出かけて行きますが、休みの日は女の子らしく生き生きと出かける子もいれば、静かに休息する子もいます。自分のペースで、オンとオフの切り替えがきちんとできているんだと思います」(前田さん)

練習においても、栄監督は「メリハリを大切に」と話していたが、それは選手たちのライフスタイルにも染み込んでいるようだ。

レスリング女子集合写真

レスリングが強くなるために、人間を磨く

食事を終えた人たちは、自分で食器を洗って食器棚にしまう。今日の予定が書かれたホワイトボードには、寮の「心得」のような張り紙がしてあった。「先輩も後輩もあるべき姿を考えて行動する」「(言われたことは)素直に直してふてくされない」などの言葉の一番上には、「強くなるために来たと言うことを忘れない」。

「どんなに子どもっぽい子も、上級生になるとぐっと大人になります。先輩の姿を見て、なりたい自分を見つけるのかもしれません」(前田さん)

これからも、選手たちを支えるこの仕事は続けるという前田さんに、最後に、レスリングの魅力を聞いてみた。

「やっぱり、見ていて元気がもらえるんです。情熱的で、素直で、笑顔で。選手一人一人の姿を見ればきっとファンになるはず。ぜひ、会場に足を運んでみてくださいね」(前田さん)


「強カワイイ! 至学館女子レスリングの魅力に迫る(前編)」はこちら



TEXT : Sachiko Kawase