初心者のランニングシューズ選びにおいては、とくに店頭での相談や試し履きが重要です。しかし、昨今の状況により、なかなかお店へ足を運べず、オンラインショッピングで購入しなくてはならない方も少なくないことでしょう。
今回は、「健康のためにほぼ毎日走っているが、ランニングシューズには特にこだわりなし」というライターが、初心者がオンラインショッピングでランニングシューズを購入する際のチェックポイントとおすすめシューズを、ランニングコーチに聞いてみました。
<目次>
・ 大切なのは「自分の足の実寸サイズを知ること」
・ 実際の足の大きさ+1cmがシューズ選びの目安
・ 初心者向けランニングシューズは「クッション性」と「安定性」に注目
・ 初心者向けおすすめランニングシューズ4選
■教えてくれた人
小谷浩さん(アシックスランニングクラブコーチ)
アシックスラン東京丸の内常駐のランニングコーチ。国内外のマラソンや国際マラソンなど多くのレースに出場した経験や、東京マラソンのペースセッターなど、豊富な経験を活かし、ビギナーから上級者までさまざまなレベルのランナーをサポートしている。シューズやウエアに関する知識も豊富なので、店頭で見かけた際はぜひ相談を。
アシックスラン東京丸の内については、こちら
大切なのは「自分の足の実寸サイズを知ること」
――普段、健康のために走ってはいますが、シューズの知識は全くありません。そろそろシューズを買い替えようと思っているんですが、初心者がオンラインショップでランニングシューズを買うときに気をつけるべきポイントを教えてください。
初歩的ですが「見た目だけで選ばないように」ということですね(笑)。上級者向けのソールが薄い靴をかっこいいと思って選ばれる方も多いのですが、筋力やフォームを身に付けていない状態で上級者向けのシューズを履くことはケガや故障の原因になることもあるのでご注意ください。
――厚底のシューズって足の速いアスリートが履くものだと思ってました。アシックスのシューズは違うんですね。
そうですね。ニュースなどの影響で「厚底=速い人が履くもの」と思っているビギナーの方も増えているのですが、すべての厚底シューズが上級者向けというわけではないんですよ。アシックスの場合、ソールが厚いシューズはクッション性が高くなっているので、ランニング時に片足にかかる負荷を分厚いソールがカバーしてくれるんです。走るための筋力が充分でないビギナーでも、脚への負担が少なく走ることができます。
――それは知りませんでした……。ほかにも初心者ランナーがやりがちなシューズの間違った選び方がありそうですね。コーチがシューズのアドバイスをしてきた中では、どんなものがありましたか?
シューズのサイズ選びを間違えている人は多いですね。特に、初心者の方は、自分の足がランニングシューズではどの程度のサイズ感なのか理解しないまま、普段履いているスニーカーと同じサイズを買ってしまいがちです。
――ランニングシューズと他の靴とではサイズ選びが違うのですか?
そうなんです。つま先に十分なゆとりを持ちつつ、かかとや土踏まずの部分がしっかりと支えられるよう、長さと幅が適切なランニングシューズを選ぶことが重要です。そのためには、ご自身の足の幅や特徴をまずは知ることが大切なんです。そもそも本当の自分の足のサイズを知っている人はあまりいません。さらに足の大きさを人と比べる機会もないため、シューズを一緒に選んでいくなかで「幅広な足だと思っていたけど、実はスリムな足形だった」というケースや、その逆も少なくありません。家でも簡単に測れるので、ぜひ一度測ってみることをおすすめします。
なお、足の大きさは体調や時間帯によって変わります。シューズを履かれる時間帯に合わせて計測をするのが良いでしょう。
・足長(そくちょう)の測り方
裸足で計測を行います。かかとの中心と、第二趾(人差し指)の中心を結び一直線になるようにして線を描きます。その直線を基準として、もっとも長い趾(ゆび)までの長さを測ります。人によっては親指の場合もあれば、人差し指の場合もあります。
アシックスではプリントして使用する「足のサイズ簡易計測シート」を用意していますので、これを利用するのも良いでしょう。
・足囲(ウイズ)の測り方
裸足の状態でメジャーを用いて計測を行います。第一趾(親指)と第五趾(小指)それぞれの根元にある張り出した骨を直線で結ぶように、メジャーを一周させ、その長さを測ります。
・自分の足のサイズを知る
シューズによっては足囲(ウイズ)に応じて、さまざまなバリエーションが用意されています。アシックスオンラインには、各シューズに対して「幅/ラスト」という項目がありますのでここを確認することで、よりフィットしたシューズ選びができます。
なお、アシックスではスマートフォンのカメラ機能を使って足形を計測し、「幅/ラスト」に応じたサイズの目安を教えてくれるサービス「MOBILE FOOT ID」のβ版の提供もスタートしています。まだテスト段階ではありますが、参考までに活用してみてはいかがでしょうか。
実際の足の大きさ+1cmがシューズ選びの目安
――自分の足のサイズを知った上で、どのようにランニングシューズのサイズを選べばいいのでしょうか?
一般的に、自分の足の実寸よりも1cmほど大きめのものが、ランニングシューズとして適していることが多いです。
――なぜ1cmほどゆとりを持たせた方がいいのでしょうか?
ランニングでは歩いている時と違って、常に片足で全体重を支えることになります。そのため足に対して体重の約3倍ほどの負荷がかかると言われています。その際、土踏まずのアーチが潰れてクッションになるのですが、同時につま先がシューズの中で前方に向かってせり出すように動きます。そのためのスペースを空けておかないと、爪が割れたり変色したりするなどのトラブルにつながってしまいます。そして、そのゆとりは足の実寸サイズに対して、7mm~10mmほど大きいものが良いと言われています。
――左右で足のサイズが違う場合、どちらに合わせれば良いでしょうか?
大きい方に合わせてください。その理由は、小さいシューズよりも大きいシューズを履いた方がトラブルにつながるリスクが少ないからです。
――履き心地を確認するおすすめの方法はありますか?
かかとをしっかりと合わせてから靴ヒモを結びます。そして歩くだけではなく、片足で立って体重をかけた状態でサイズがきつく感じないかを確認するといいでしょう。
初心者向けランニングシューズは「クッション性」と「安定性」に注目
――ランニングシューズには「初心者向け」と言われるものがありますが、どのあたりが初心者向けなのでしょうか?
まずは、クッション性の高さです。走行時、体重の約3倍の負担が片足にかかりますが、初心者にはそれを支えられるだけの筋力がありません。その代わりとして、シューズのクッションでカバーするという考え方ですね。
次に、安定感です。初心者の方は走るフォームが不安定な傾向にあるので、それを安定させられるようにシューズに工夫が施されています。
クッション性と安定性を組みあわせることで、“足への負担が少ない”のが初心者向けシューズの効果と言えるでしょう。初心者の方にありがちな失敗として「膝や腰に痛みを感じて走るのが嫌になってしまう」ということです。せっかく走ろうと思ってランニングを始めたのに、そこから二度と走らなくなってしまう方も少なくありません。長くランニングを続けるには、初心者向けシューズのクッション性と安定性が重要な助けになります。
――では、ランニング初心者は、初心者向けシューズを一足購入するといいということですね。
理想としては、2足くらい持っていて欲しいですね。
――個人的にはそんなにガツガツ走り込むつもりはないんですが……どうして2足持っているのがおすすめなんですか?
違う靴で走ることで走る感覚が変わり、それによって使う筋肉も変わってくるんです。そのため、2足のランニングシューズを使い回すことが全身の筋肉を満遍なく成長させることにつながり、疲れも分散させることが期待できます。また、同じ靴を使い続けるよりもケガや故障のリスクを減らすことも期待できます。また、2足あれば毎回同じシューズを履かずに済むので、シューズを長持ちさせることもできます。
初心者向けおすすめランニングシューズ4選
――アシックスのランニングシューズのなかで初心者向けにあたるのは、どんなモデルなのでしょうか?
「GEL-KAYANOシリーズ」「GT-2000シリーズ」「METARIDE」「NOVABLAST」の4モデルを初心者向けとしておすすめしています。
――4種類ともデザインが大きく違いますが、どんなポイントで選んだら良いのでしょうか?
「どんな走りをしたいか」で、選んでいくのが良いと思います。たとえば、ハーフやフルマラソンの大会にチャレンジしたいという方であれば、トレーニングから実戦まで汎用性の高い「GEL-KAYANOシリーズ」「GT-2000シリーズ」を、長く走ってみたいという方は「METARIDE」、気分転換や健康維持のために走りたいという方は「NOVABLAST」、といった具合で選んでもらうと良いと思います。各モデルについて詳しく説明していきますね。
本格的にランニングを楽しみたい方におすすめ。バランスの取れた2シリーズ
「GEL-KAYANOシリーズ」(写真左)
GEL-KAYANOは、30年近く続いている歴史あるシリーズです。その特徴はバランスの良さにあります。衝撃を緩衝するのに十分なソールの厚みもあり、かかとをホールドするパーツもしっかりしていて、クッション性と安定性を両立させたモデルと言えるでしょう。ウイズバリエーションも多いので、さまざまな方におすすめできますね。
「GT-2000シリーズ」(写真右)
こちらもアシックスの中でも長い歴史を持つシリーズです。クッション性と安定性の両面をしっかり確保しながらも、GEL-KAYANOと比べると全体的にパーツが軽量化されていて、軽く仕上げられています。厚さもちょっとだけ薄く、クッションも少なめですね。GEL-KAYANOの軽量化バージョンと捉えてもいいかもしれません。両者を履き比べて、好みの履き心地のシリーズを選ぶのがいいと思います。
自然と前に進むような感覚で、長距離ランにおすすめ
METARIDE(写真左)
つま先が大きくカーブしている特徴的なフォルムによって、前に転がるような感覚が得られるシューズです。走行効率が良く、長い距離を省エネで楽に走りたい方におすすめですので、初心者の方がマラソン大会に出るときに使ってもいいモデルです。また、路面を蹴らなくても前に進みやすく、足首やアキレス腱への負担が少ないのが特徴です。
弾むような走り心地で、気軽にランニングを楽しめるシューズ
NOVABLAST(写真右)
FLYTEFOAM™ Blastというスポンジ材を搭載したシューズで、大きく弾むような感覚が得られます。これによって非常に軽快にランニングを楽しむことができます。通常、初心者の方は走り始めたばかりの頃はほとんど距離を走れませんが、このシューズならある程度の距離を弾むように走れると思います。
――初心者が選ぶ2足としておすすめの組み合わせはありますか?
「GEL-KAYANOシリーズ」か「GT-2000シリーズ」のどちらかと、METARIDEあるいはNOVABLASTを組み合わせると良い気分転換ができて飽きることなくランニングを楽しめるのではないかと思います。
たくさんのシューズから選び放題のオンラインショッピングだからこそ、見た目で選んでしまうのは禁物ということがよくわかりました。まずは自分の足のサイズをしっかりと測り、初心者向けのラインナップの中から自分に合ったシューズを探してほしいと思います。
Photo:Kenta Terunuma
TEXT:Kenta Terunuma