テニスは、足の使い方がパフォーマンスに直結するスポーツ。“足ニス”なんて言う人もいるほどです。こう聞くと、「シューズ選びが肝心なんだな」ということは、初心者でもなんとなく想像がつきます。ですが、いざ売り場に行けばコートの種類別にシューズがずらりと並んでいて、これという一足を見つけるのはなかなか難しいもの。結局、使い勝手が良さそうなオールコート用を選んでいる人が多いのではないでしょうか。

「屋内コートが主流になりつつある今、コスパ最優先で選ぶのは、実はあまり望ましくありません」と話すのは、アシックスのアスレチックビジネスプランニング統括部でシューズの企画開発に携わり、自身もテニスを楽しんでいるという笠松宏樹さん。どうやら、時代とともにテニスシューズの選び方は変化しつつあるようです。そこで今回は笠松さんに何を基準に選ぶべきか、テニスシューズ選びの基本を聞いてみました。

<目次>

足の動きに特化したテニスシューズ、他のシューズとの違いは?

ウォーキングや筋力トレーニングなど日常的に行う運動に比べると、テニスは週に1~2回とプレー頻度が少ないこともあり、テニスシューズを選ぶ際は、どうしてもコスパを優先してしまいがちなもの。コートの種類別にシューズをそろえるよりも、オールマイティな“オールコート用”を一足買う人が多数派なのが現状でしょう。
しかし、テニスは足の動きが重要だからこそ、シューズ選びはこだわるべきだと自身もテニスをしている笠松さんは話します。

――そもそもテニスシューズは他のシューズとどんなところが違うのでしょうか? たとえば、街で履くようなスニーカーとは何が違うのでしょう。

普段履きのスニーカーとの大きな違いは、テニスシューズはそのプレー特性を考慮したグリップ性や耐久性などを考慮した設計にしていることです。

――クッション性、グリップ性、耐久性はスポーツ用のシューズだからこそ求められる機能性と言えますね。

そうですね。たとえば、ランニングシューズの場合、走る動作は前へ足を運ぶ動きなので、前に向かって進む時に足にかかる衝撃を緩衝するクッションがあるほか、軸がブレないようなサポート性といった機能を重視してつくられています。

――ではランニングシューズとテニスシューズでは何が違うのでしょうか。

動く動作のバリエーションの違いがデザインにも反映されます。ランニングは前後の動きが基本となりますが、テニスは左右に対する動きも加わりますので、横の動きに対するサポート性も必要です。
さらに、わかりやすい違いを挙げるなら、プレーするコートの種類によってシューズのソール意匠が変わることですね。「とりあえずオールコート用なら大丈夫では」と安易に選ぶと、パフォーマンス自体に大きな影響を与えかねません。

「オールコート用のテニスシューズは万能」とは言い切れない理由

アスレチックビジネスプランニング統括部の笠松宏樹さん。自身もテニスをプレーしている。

――テニスのコートは、オムニ(砂入り人工芝)、クレイ(土)、ハード、カーペットが一般的なようですが、日本国内では屋外コートのオムニコートがやはり主流でしょうか。

整備や維持のコストがおさえられる点で、以前はオムニコートが主流でしたが、ここ数年の猛暑の影響もあり、最近は屋内コートが目立ってきます。つまり、カーペットタイプですね。

――カーペットタイプのコートでも、いわゆるオールコート用のシューズでプレーできるものでしょうか?

(左から)オールコート用/カーペットコート用/オムニ・クレーコート用 ※ソールのカラーは、実際の商品とは異なる場合があります。

プレーはできます。ただしアシックスのオールコート用のシューズの場合、もちろんどのコートでも履いていただけるのですが、実はハードコートをメインに開発しています。コートによるシューズの構造の違いが、最も顕著に表れるのはソールです。なかでも溝の有無によりグリップ性が大きく変わるのですが、カーペット向けのインドアシューズは他のタイプと違って溝がなく、とても特徴的な構造をしています。

――他のタイプと違ってソールが印象的なインドアテニスシューズ。ここまでつるりと凹凸のないソールだと、プレーした時に踏ん張りきれず転倒しそうな気もしますが…。

実は、カーペットは絨毯のような凹凸のあるコートなので、カーペット自体にものすごくグリップ力があるんですよ。グリップ力というと、シューズのソールの溝によってグリップさせるのがイメージしやすいですが、カーペットコートの場合は、カーペット側にグリップ力があり、シューズのソールが引っかかりやすい構造になっているんです。そのため、ソールに溝があるオールコート用などの他のタイプでは転倒の可能性が高まります。昨今は、ケガ対策として、インドアシューズ以外の使用を制限している屋内コートもあるそうです。

――少しでも抵抗を減らした結果、このようなフラットなソールになったということですね。ソール以外で他のテニスシューズとの違いはありますか?

ミッドソールのプラスチック樹脂により、シューズのねじれが起こりにくい作りになっている。 ※ソールのカラーは、実際の商品とは異なる場合があります。

このSOLUTION SPEEDシリーズにおいて言えば、アウターソールの意匠以外は基本同じです。例えば、サーフェスに関わらずすべてのモデルに、ミッドソールは衝撃を和らげる働きがあるほか、横方向の動きに対するねじれ防止の機能も搭載しています。ミッドソールにプラスチックの樹脂を用いることで、左右に動いてもソールのねじれが起きにくく、フットワークの安定につながります。

アシックスには、そのほかにもいくつかモデルがあり、プレースタイルによって必要な機能を搭載しています。

ソール以外は何に留意すべき?テニスシューズ試着時のチェックポイント

――コートによってソールがこうも変わるとは驚きです。ソールの他にシューズ選びにおいて確認しておきたいポイントがあれば、教えてください。

基本的なポイントになりますが、やはりサイズ感は念入りに確かめてもらいたいですね。

1.大きめではなく、自分に合ったサイズを選ぼう

テニスシューズを選ぶ際、実際の足長(サイズ)より2cmほど大きいものを選ぶ人が多いと思いますが、これはあまりおすすめしません。少しマニアックな話になりますが、歩くときに足が折れ曲がる位置(MP関節)に合うように、シューズの屈曲位置も設計されています。ですが、この足の曲がる位置とシューズの屈曲位置のフィット感は、自分合ったサイズでないとなかなか感じることができません。なお、試着は体温が上がり足がむくみ始める(テニスのプレー中と同じ足の状態)午後~夕方に試着するなど、時間帯を工夫してみましょう。

2.足囲(ウイズ)のフィット感もしっかり見よう

左右の動きが多いテニスのシューズ選びでは、足幅(ウイズ)もしっかり合うものを選びましょう。そこまで幅広な足ではないのに「スーパーワイド」を履くと、当然靴の中で足が大きく動きます。すると靴自体でグリップが効かず、足の指で踏ん張ろうとしてしまって足が疲れやすくなります。

3.「軽い」「素材がやわらかい」が良いとも限らない

人それぞれ好みはありますが、素材がソフトかどうかというポイントだけを見て、履き心地が快適かどうかを判断するのはあまりおすすめできません。やわらかすぎるシューズだと、踏ん張った時に足を支えきれずホールドしてくれないこともあります。また、軽量なシューズにも同様のことが言えます。プレースタイルや練習頻度も考慮した上で、しっかりと自分の足をサポートしてくれるものを選びましょう。

テニスは足の使い方がプレーのカギを握るスポーツ。コートに適したテニスシューズを選んで、プレーのパフォーマンスを上げましょう。

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Text:Nao Kadokami
Photo:Tetsuya Fujimaki