100km 以上におよぶ山岳コースを、昼夜にわたって走り続ける「ウルトラトレイルランニング」。過酷極まりないこのレースを、現在、誰よりも速く、そして軽やかに走り抜けるのがグザビエ・テベナール選手だ。2019 年 4 月中旬、そんな彼が、神戸市にある「アシックススポーツ工学研究所」を訪れた。ランニングフォームをはじめとする、さまざまな身体データを計測するためだ。計測の合間を縫い、ウルトラトレイルランニングとの出会い、そしてその魅力について聞いた。

「走ること」と「楽しむこと」は、常に同義だった

──まずは、自己紹介をお願いします。

グザビエ・テベナール(以下グザビエ) 普段はフランスのジュラ山脈地方に住み、スキーのインストラクターや体育の教師をしています。もちろん、ウルトラトレイルのランナーでもあります。ちなみに、家具職人の資格も持っています。走っていない時や仕事をしていない時は、自然の中を散歩したり写真を撮ったり、あとはギターを弾いたりして過ごしています。ランニング以外のスポーツも大好きで、カヤック、ロッククライミング、マウンテンバイクなど、大自然で行なうスポーツ全般を楽しんでいます。

──子供のころからトレイルランニングをしていたのでしょうか? それともトラック競技やまったく違うスポーツから転向したのでしょうか?

グザビエ 学校のクラブ活動でクロスカントリースキーをやっていたので、夏の雪がない時期はトレーニングのために山の中を走っていました。その意味では、昔からトレイルランをしていたといえます。もっとも、当時はまだ「トレイルランニング」という言葉自体ありませんでしたが(笑)。

さらにいうと、小さなころから無自覚のままトレイルランニングをしていたのかもしれません。

というのも、街からとても離れた場所に住んでいたので、友達と遊ぶためには片道 10km 歩かなければなりませんでしたし、遊ぶにしても林の中へ冒険しに行くのが大好きだったので、毎日毎日、とにかく山の中を走っていたからです。そうした7、8歳ころの日常が、無意識のうちに現在の活動につながっていると感じます。

──子供時代から、「走ること」と「楽しむこと」が同義だったんですね。

グザビエ そうですね。ずっと、走ることに喜びを感じていました。そして徐々に、長距離を走ることの魅力に引き込まれていきました。自分の肉体で実験をすることが好きというか、長距離を走ることで、自分の肉体がどうなっていくかに興味がわき始めたんです。そういうメンタリティのせいなのか、苦しい状況の中でも、常に喜びや幸せを感じます。自然の中に一人でいると、ほかでは見つけられない安らぎや静けさを感じますし、自分と向き合うこともできます。それらすべてが、自分に喜びを与えてくれるんです。

ウルトラトレイルラン・カルチャーの多様性

──かつてトレイルランといえば、華やかで規格化されたロードランニングの世界からはみ出した、自由と自然を掲げるカウンターカルチャーの申し子たちのものでした。彼らはヒッピーのような放浪に憧れ、むき出しの大地の上を走ることで、自分たちを表現してきました。グザビエさんをはじめ、現在のウルトラトレイルランナーは、そうしたカルチャーとは別の「新しい世代」ではないかと思います。現在のウルトラトレイルラン・カルチャーを、グザビエさんはどう捉えていらっしゃいますか?

グザビエ トレイルランの文化は非常に多様だと思います。なかでもウルトラトレイルは、肉体的にも精神的にもほかのトレイルランとはかけ離れた競技で、より自然に近く、競争やコンペティションの要素は薄いと考えています。実際、ウルトラトレイルランをやる人たちは、僕も含め「ランニングの選手」ではなく「山の男」だと思っています。本当に自然が好きで、エコロジックな考え方を持った強いパッションがないと、長すぎると感じたり苦しくなってしまいますからね。その点、山の男は山奥の生活を知っているし、天気や気温の変化などにも敏感です。厳しい状況も含めた「大自然のすべて」を生かすウルトラトレイルランにおいては、そうした資質が重要になってきます。

速く、長く走るほど自然や景色を満喫できるこの冒険が、僕は大好きです。その視点で考えるならば、アメリカのトレルラン・カルチャーの方が僕には合っていると感じます。アスレチックな世界における競争では、常にライバルとの戦いですが、僕はライバルと競い合うより、自分との戦いの方が大切だと思っています。ウルトラトレイルは、他人へのチャレンジではなく、自分へのチャレンジなんです。別の言い方をするなら、ウルトラトレイルでは「山と遊ぶこと」が何よりも重要なんです。

Xavier Thévenard(グザビエ・テベナール)
スキー、マウンテンバイク、カヤックにおけるトレイルランナー兼スポーツコーチ(フランス|ドゥー拠点)。ランニングにおける厳しい教育により鍛えられ、フランスジュニアチームのメンバーに。クロスカントリースキーの記録保持者(185 ㎞ in 10 時間 59 分)。4つの主だったウルトラトレイルランニングの大会(OCC / CCC / TDS / UTMB)で初参加にもかかわらず、勝利を収めたただ一人のアスリート。

TEXT: Tomonari Cotani
PHOTO: Yusuke Kusaba

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