いよいよ8月4日に開幕を迎える「ロンドン世界陸上」。サッカーでいえばワールドカップにあたる陸上競技の世界最高峰イベントは、世界各地から集うトップアスリートたちによって、日々名勝負が繰り広げられてきた。世界中には多くの陸上ファンが存在するが、日本ではSNSを中心に陸上ファンの裾野を広げるために、さまざまな大会に出向いてはその模様を事細かに伝え続けている熱狂的陸上ファンの人々がいる。

そんな陸上競技を愛してやまないTwitterユーザーとして、西本武司さん(@EKIDEN_News)、駅伝マニアさん(@ekiden_mania)、ポールさん(@m_paul_paul)をゲストに迎え、「世界陸上」と陸上競技そのものの楽しさを語る対談を前後編にわたってお届けする。

陸上競技の感動を伝えたいという想い

まずは皆さんが陸上競技に夢中になったきっかけを教えてください。

西本 僕は9年前に始めたジョギングがきっかけですね。ある日、砧公園を走っていたら、ジョグをしていた駒澤大学陸上部の選手に簡単に抜かれたんですよ。それを追いかけたら肉離れしてしまって(笑)。僕の妻の実家が横浜の保土ヶ谷で、毎年、箱根駅伝の2区を沿道から応援するというのが恒例行事なんです。そしたら、駒澤大学の2区を走った選手が、僕を肉離れに追いやった宇賀地選手だったということが後に分かって。それから箱根駅伝を追いかけるようになって、関東インカレの存在を知るんですが、会場で「#関東インカレ」とTwitterで調べてみたら、ラップタイムを延々とツイートしている人がいたんですよ。周りを見渡してもPCを開いている人なんていなくて。それがEKIDEN_MANIAさんだったという。

マニア 西本さんはTwitterを介して、10000mで東海大学の早川選手が遅れた理由が腹痛だったと教えてくれたんですよね。

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西本 それからマニアさんの行動を追い始めて、会場に足を運ぶようになりました。iPhoneで大会をUstream中継しはじめると、ポールさんやいろいろな陸上ファンが僕のタイムラインに現れてきて。次第にマニアさんの年間スケジュールと同期するようになっていき、ついに今回の「ロンドン世界陸上」まで一緒に行く間柄になりました。8年がかりで陸上競技の感動を伝えなきゃと思って写真を撮り始めていくと、延々とそれをTwitterにアップしていくことが生業に変わっていったという。

SNSを介してそれぞれが知り合っていくというのが時代を象徴していますよね。

西本 僕らが一番同期した出来事は、ある年の箱根駅伝なんです。往路が終わった時に、日本全国の箱根駅伝オタクたちがひとつのハッシュタグでつながっているので、横浜のホテルの四畳半くらいの和室で往路お疲れ様会をやろうとTwitter上で呼びかけたら、続々と人がやってきたんですよ。インターネット上では「あのEKIDEN_MANIAも姿を現す!」と話題になり、狭いスペースに20~30人が集まってマニアさんを待つということがあったんです(笑)。そういう集まりから、大きなうねりが始まって。

ポール 僕はマニアさんと運命を感じた出来事があって。僕の地元に佐久長聖高校という陸上の名門校があるんですが、なかなか表に情報が出なくて、大会の結果は翌日の朝刊を待つという状態だったんです。それで当時中学生の僕は、2ちゃんねる上で佐久長聖関連の大会の実況を始めたんですね。1年間くらいやっていたんですが、ある日、ネット上に全国の大会を実況する人物が現れて。その人が後のマニアさんだと知るんですが、さすがに勝てないと思ったんですよね。そこから僕は記録をまとめる側に移りました。

それにしても、中学生の時点でマニアックな情報を実況するってすごいですよ。

ポール ちなみに記録整理用のPCを別に持っています。wikipediaには間違えているものが結構あったりするので、僕はその一つひとつを自分のデータを信じて修正するんです。そうやって記録をアップしていたら、国士舘大学の記録会で西本さんと出会ったという。

西本 国士舘記録会の時にポールさんが会いたいとTwitterで絡んできて。長距離好きだから細いヤツが来ると思っていたら、太いヤツがこっちを見ていて。「まさかあいつじゃないよな…」と思ったらポールさんだったという(笑)。ポールさんは国士舘大学陸上部の投擲選手だったので、いわば自分のホームだったんですね。ただ、彼はトラックの内側から長距離選手が見えるという理由で投擲選手になったらしく。国士舘大学が箱根駅伝予選会で予選落ちした時に、スリムな長距離選手が泣いている中、クマみたいな男が泣き崩れていて、それを長距離選手が抱えているというシーンがあるんですよ。それがポールさんなんですけど、ある意味で長距離選手よりも箱根に賭けているという(笑)。

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関係者と一般ファンの間にいる熱心な情報発信者

EKIDEN Newsのアカウントでは、駅伝情報に偏っているわけではなくて、陸上競技全体を網羅していますよね。

西本 陸上仲間みんなで日本各地の大会に行って騒いでいるうちに、共有アカウントを作って連携プレーをとったほうがいいという話になったんです。誰かが行けない時は誰かがフォローする。そうしてEKIDEN Newsの今の形ができたんですね。現在は6名で動かしています。マニアさんがツイートする場合もあるんですよ。

マニア 例えば日本選手権では、僕がラップタイムを計ると同時に撮った写真もEKIDEN Newsに投稿することもあります。西本さんがゴール側でスタンバイしていたら、僕は反対側の走幅跳をカバーするなど連携して。

西本 長距離選手のラップタイムをきっちりと記録して、その場でSNSにアップしていくという作業も重要なんです。ラップタイムは世界中の陸上ファンに共通する数字なので、それを見た国際陸連のアカウントがリツイートやリプライしてきたりすることもあります。

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この対談の場には日本陸連の高橋さんも同席していますが、熱狂的陸上ファンである皆さんとは、どういった形で交流が始まったのでしょうか。

高橋 ある年の日本選手権で、EKIDEN Newsから取材申請が届いたんです。「何者だ?」と思ってTwitterアカウントをチェックしてみると、連盟ではカバーできない情報がかなりアップしていました。これはファンの皆さんに絶対に必要な情報だと判断して、申請を受けることにしたんですね。今では僕らが行けない大会の写真を撮っていただくこともしています。午前中は香川・丸亀のレース情報をアップしていたと思えば、午後には大阪の室内陸上の会場にいる。不可能を可能にしていますよね。

連盟とファンの間に信頼関係が生まれていることが極めて珍しい事例だと思います。

高橋 僕らとしても、ファンの方との距離感をどれだけ縮められるかが大切なことだと思っています。3人をはじめ熱心な陸上ファンの皆さんは率先して情報発信して、僕らと一般のファンの皆さんとの間にいる。それはなかなかない立場だと思いますし、陸連としても重要な関わりだと思っています。

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駅伝マニア(エキデンマニア)@ekiden_mania

神奈川県出身、自営業。小学生の頃、マラソン大会で優勝し陸上に目覚める。5000m14分29秒、フルマラソン2時間59分。

ポール@m_paul_paul

長野県出身、住宅関係の企業に勤めるサラリーマン。指定校推薦枠で大学に推薦入学するも、箱根駅伝に出る&投擲が強い大学じゃなきゃ嫌だという理由から辞め、違う大学に再入学。やり投げ66m。

西本武司(ニシモトタケシ)@EKIDEN_News

福岡県出身、渋谷のラジオ制作部長。メタボ対策ではじめたジョギングがきっかけで箱根駅伝と陸上にハマってしまう。フルマラソン 3時間12分。


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TEXT : Shota Kato PHOTO : Tetsuya Yamakawa