レシーブ、トス、アタック。3タッチの動作で守備から攻撃に切り替える、いたってシンプルなスポーツだという認識がバレーボールにはあるかもしれない。だが、ルールの変更などともない、時代とともにプレースタイルは変化しており、それに伴いプレーヤーを支えるシューズも進化し続けてきた。今回は、アシックスのバレーボールシューズ「V-SWIFT FF 2」の開発に携わる、脇田大樹(開発担当)、吉田慎平(企画担当)、久保田翔(開発担当)の3人が、開発現場から見えてきたバレーボールのルールやプレースタイルとシューズの変遷について解説する。

<目次>

バレーボールシューズの大きな転換期は1999年

バレーボールシューズの大きな転換期は1999年
(左から)バレーボールシューズの開発に携わる、脇田大樹(開発担当)、吉田慎平(企画担当)、久保田翔(開発担当)。部活生たちへのヒアリングを製品の開発に活かしているという。

中高の部活動をはじめ、社会人のサークルなどでも人気の高いバレーボール。ルールのわかりやすさから、初心者でもはじめやすく、さまざまな世代に愛されるスポーツだ。しかし、プレースタイルのトレンドは年々変化しており、選手のプレーを支える役割を担うシューズのデザインも常に進化しているという。

――私も昔、バレーボール部だったのですが、当時履いていたシューズと見た目がだいぶ変わっているのに驚きました。バレーボールシューズのデザインってこんなに変わっていくものなのですね。

脇田大樹(開発担当) そうですね。シューズのデザインに影響を与えている一因として、プレースタイルの変化が挙げられます。なかでも、1999年のルール変更はプレースタイルに大きな影響を与えていると思います。以前はサーブ権を持つチームがラリーに勝った時だけ得点が入る“サイドアウト制”でしたが、そこからサーブ権の有無に関係なく、ラリーを制したチームに得点が入り、サーブ権も手に入る“ラリーポイント制”になりました。このルール変更により、「粘って守り勝つ」というスタイルから、「リスクを冒してでも攻撃的に戦う」スタイルにプレースタイルがシフトしていきました。

――ルールやプレースタイルの変更により、トレンドとなる戦術にも変化があったのでしょうか。

脇田 1999年のルール改正前には、スーパーエースと言われるアタッカーが高いトスを受けてアタックを打ち込むというのが主流でしたが、近年では強いサーブやスピーディーで正確なパスによる試合展開など、さまざまな戦術で攻め込むようになっています。
FIVB(世界バレーボール連盟)の調査によれば、2006年から2016年の10年間で、サーブから1回のアタックで得点が入る確率は約20%減少しています。また、ラリー時間は変わらず、ボールへの接触回数は4.5回から6.5回に増加しているんです。

――プレースタイルが複雑化すると、プレーヤーがシューズに求めるものも変わりそうですね。

吉田慎平(企画担当) はい。そもそもバレーボールの動作は、ほかの室内競技と比べても特徴的です。たとえば、試合数あたりの移動距離が非常に短く、バスケットボールと比較すると10分の1とも言われています。また自分のポジションから半径1〜2mの範囲内でしか動かないケースもあり、素早い動きが求められます。さらに、なかには1試合で100回以上ジャンプを繰り返すポジションもあります。そのため、軽量で動きやすいだけでなく、選手のパフォーマンスをサポートするようなクッション性も欠かせません。かつて部活生には軽量性を重視する傾向がありましたが、最近はクッション性も求める人が増えているように感じます。12月に発売する新モデル「V-SWIFT FF 2」はまさに、軽量性とクッション性のバランスをテーマにしています。

V-SWIFT FF 2についてはこちら

部活生が少しでも快適に練習できるようなシューズを

部活生が少しでも快適に練習できるようなシューズを
定評のあるグリップ力はそのまま、軽くてクッション性に優れたミッドソールを採用した「V-SWIFT FF 2」。アッパーの部分には縫い目を少なくし、熱圧着でプリントしているため、足入れ感も良いのが特徴。

――シューズの開発には部活生の声も取り入れているとのことですが、彼らにヒアリングする際、具体的にどのようなアプローチを取っているのですか。

久保田 翔(開発担当) バレーボールに限りませんが、アシックスではシューズができると、近隣の学校の部活生に2〜3か月ほどテスト履きをしてもらっています。バレー部の見学に行くことも多いのですが、彼らを見ていると「少しでも快適に練習できるような靴を作らねば」といつも思います。練習時間は長く、体育館のなかは暑く、時には厳しい指導も入る……それでもひたむきに頑張る姿に「部活生ってすごいなあ。良いシューズを開発しなければなあ」としみじみ感じていました。だから「V-SWIFT FF 2」では足に負担がかかりにくいよう軽量性を強化し、長時間の練習にも耐えられるようなクッション性にこだわりました。

――そんな部活生たちの姿を見て「V-SWIFT FF 2」ができたわけですね。アシックスのシューズ作りの技術も年々変わってきているのでしょうか?

脇田 アシックスのシューズ開発の変遷としては、使用する素材やシューズ作りの技術がアップデートされてきたといえます。先ほど申し上げたようなプレースタイルの変化に加えて、日本人の体格やフィジカルがより成長していることから、シューズの耐久性や強度の重要性も増しています。そこで「V-SWIFT FF 2」ではソールとアッパーにも工夫を加えています。いま主流のスピーディーなプレースタイルに合わせて、プレーヤーの素早い動きをサポートするソール構造にしたほか、ミッドソールには軽量性とクッション性に優れた「FLYTEFOAM」を採用しています。また、これまではミシンによる縫製を行っていましたが、熱圧着の技術が向上したため、アッパーは縫い目が少ないシームレスなデザインになり、足入れの良い仕上がりになっています。

――素材や製造技術が進化しているなかで、昔から変わらない特徴というのもありますか?

吉田 時代とともにアップデートされる部分が大半ですが、ソールのグリップ力については昔から変わっていないのがアシックスの強みです。ソールのパターンや素材は、アシックススポーツ工学研究所の調査に基づく指針を元に設計しており、プレーヤーに高く評価されています。
初動が大切という話もありましたが、バレーボールとはまさしく0.1秒を争う競技です。ボールに対する瞬時の動作がポイントを左右する競技であり、裏を返せば、足元のちょっとした滑りが失点に繋がるリスクも高い。だからこそ、然るべきタイミングで止まることができ、思い切ったジャンプをするためにもソールのグリップ力が果たすべき役割は大きいと思います。

脇田 「V-SWIFT FF 2」はグリップ力をいかに効かせるかにこだわりました。サイドの動きに対して身体が横に流れないよう、グリップの方向性にも工夫しています。また内側のラバーを巻き上げてラウンド形状にすることで、スムーズに重心移動できる構造にしました。

――手に取ってみると、シューズの軽さに驚きます。また通気性も良さそうですね。

久保田 はい。長時間の練習でも快適さを保てるよう通気性にもこだわりました。従来のモデルではソールの通気孔が中足部に集中しているものが多かったのですが、今回はソールの前足部にも配置しています。またアッパー部分もメッシュを使用しました。シューズを毎日洗うのは難しいですが、プレーヤーには少しでも快適にシューズを履いてもらえたらと思っています。また、長く履き続けたバレーボールシューズを見てみると、つま先や母指球部分が摩擦により削られて劣化したものがよく見受けられます。「V-SWIFT FF 2」ではつま先周りに摩擦熱に強い特殊フィルムを使用することで、耐久性を高めています。

脇田 時代とともにプレースタイルや求められる機能は変わってきましたが、日々の努力がシューズの使用感として表れる点は変わりません。練習時間が長い部活生の場合、特に顕著ですよね。

久保田 “部活生にとって大切なシューズとはどんなものだろう?”と考えたら、自然に「V-SWIFT FF 2」のようなシューズになりました。大変な練習を頑張る時の一足に選んでもらえるとうれしいですね。

TEXT:Nao Kadokami
PHOTO:Katsuyuki Hatanaka