学生が主体性をもち、イベントのすべてを取り決める

2018年12月2日(日)、立命館大学体育会に所属するすべての部活動を対象に「リーキャン(リーダーズ・キャンプ)」が開催されました。

小野澤宏時選手による講演会

ASICSはプログラムのひとつとしてラグビー元日本代表の小野澤宏時選手による講演会の実施をサポート。前半で紹介したキャプテン経験がない小野澤選手が突然キャプテンに指名され、リーダーに必要な要素を学んできたという経験談は、部活動はもちろん今後の社会人生活でも応用できるものでした。後編では、リーキャンに関わった人々のコメントを紹介し、それぞれの立場での収穫をお伝えしていきます。

リーキャンを企画するのは、実は立命館大学体育会の学生たち。会場となったホテルの手配からプログラムの内容と進行まで、リーキャンに関わるすべてのことを学生たちだけで取り決めています。運営は基本的に3回生が中心となり最上級生である4回生がサポート。責任者であるフェンシング部主将の賀來昌一郎さんによると、この自主性は立命館大学の風土だといいます。

「立命館大学の学生は主体性を持ち、考えて行動するということを、入学式で教えられます。大学の規約にも自ら学び、人間としても成長するということが書かれて、リーキャンを通じて、それを体育会の皆さんに伝えているんです」

賀來さんは、高校時代の部活動とは違い、社会人ともっとも近い大学だからこそ、リーダーについて深く考えるようになりました。

フェンシング部主将の賀來昌一郎さん

「僕は高校でもキャプテンでしたが、高校時代は監督が中心となってメニューや部の方針を考えていました。大学でも監督はいますが、学生中心で部活を運営し、メニューを考えるんです。その意味では大学のキャプテンは、高校時代と同じように選手のことを考えつつも、部がどうすれば強くなるか、より良くなるのかということを意識するようになりました」

今回の小野澤選手の講演に、自身がキャプテンとして無意識にやってきたことと重なることがありました。それはボディタッチがチームのコミュニケーションを高めてくれるというエピソードです。

「僕は意識してやっていませんでしたが、ハイタッチは、やってきてよかったなと再認識できました。先輩の意見が絶対ではなく、後輩からも意見が言いやすい組織をつくりたかったので、その意味では自分の考えを押し付けるだけではなく、全体の意見を吸い上げることが重要というお話を聞いて、卒業後の社会人生活にも自信を持つことができました。部活動は優勝など目に見える結果がありますが、リーキャンは参加者のとらえ方から見えるものが正解になります。また、自分が1年、3年、5年後などにどうありたいかを考えるところが部活動とは違うところです。今は手探りでも信念を持つことが大切なんだなと気づきました」

大学スポーツのキャプテンに求められること

小野澤選手の講演後に、参加学生に感想を聞きました。準硬式野球部の主将・中島昇悟さんと女子柔道部主将の松下夕紀さんはそれぞれ何を感じたのでしょうか。

「リーダーが話している内容が選手にとってどう伝わっているのか、そういう意思伝達の重要性を感じました。チーム全体でコミュニケーションをとるというお話を聞いて、部全体で発言できるミーティングの場を新たに設けてみたいと考えています。コミュニケーションは生きていく上で絶対に必要なので、もっと深く考えていくきっかけにもなりました」(中島)

「私は選手と監督の間に入って、チームをまとめるということが難しいと感じています。講演の中で、後輩を含めて全体の話を吸収するという話やボディタッチについての話が特に参考になりました。一人の選手として成果も出したいので、あまり固くならずみんなの意見を吸収して過ごしやすい部をつくっていきたいですね。自分も周りもやりやすい。そういう部をつくっていきたいと思っています」(松下)

松下さんは賀来さんと同じように高校時代もキャプテン、一方で中島さんは小学校と中学校はキャプテンでした。それぞれにキャプテンの経験がありながらも、やはり大学スポーツでのそれはまったく別次元だと実感しています。

「高校の時は指導者に言われたことを全体に伝えて動くという形が多かったですが、大学では個人の意見や今までやってきた自分の形があるので、言われたことを伝えてもうまく還元できないこともあります。チームと自分のことを考えて競技をしていくことで、キャプテンの立場だからこそ見えてくるものがあると思います。それが社会に出た時に役立つはずなので大事にしたいです」(松下)

「大学のキャプテンはやることが多いですね。学生主体で動いていくという中で、高校の時以上にいろいろな要素がチームの運営に関わってくる。そこが今までとは違うところだと思います。最初はしんどかったですが、慣れてきたら楽しくやっています。自分の行いがチームに浸透して、それがハマった時がキャプテンをやっていて良かったなと思う瞬間というか。その結果が表れた時には、他の選手たちにはわからない実感を得られる。それがやりがいですね」(中島)

リーキャンは講演だけでなくワークショップも開催することで、他の部活との出会いの場にもなっています。今回生まれた横の繋がりによって、さっそくお互いに刺激を受ける機会があったそうです。

「女子柔道部は23名ですが、他の部では80名、200名といった規模のキャプテンをやっている学生がいます。他の部との関わりがあまりなかった私にはまったく想像がつかない世界だったので、それだけでも今日は貴重な体験でした」(松下)

「僕が感じたのは、どの部活も問題を抱えているということ。部費が足りない、部員のやる気がないなど、僕らと照らし合わせると自分たちは恵まれているから、もっとしっかりしないといけないなと思いました。また、同じ問題を抱えている部のキャプテン同士で話し合う機会があってもいいなとも思いました。リーキャンのような機会があればいろいろな人たちの意見を聞くことができる。ここで得た経験をチームに持ち帰って生かしたいと考えています」(中島)

学生が何かに気づく瞬間まで待ってあげる

最後に、学生主体であるリーキャンの開催を見守ってきた立命館大学 学生部 スポーツ強化センターの百々遼さんにお話しを伺います。大学職員の立場としては、このリーキャンを通じて、学生たちに学んでほしいことはリーダーシップですが、具体的には何なのでしょうか。

「一言でいうと『気づき』です。リーキャンに関して、大学側からは基本的にアドバイスしないようにしています。はじめてのことなので失敗はもちろんありますが、それを自分の将来や立命館大学の次の代に継承していくことで、彼らと大学の成長に繋がると考えているんですね。そのためにも僕らが意識しているのは、学生が何かに気づく瞬間まで待ってあげる、ということ。小野澤選手のお話しにもありましたが、ベテランになると中堅が若手に対してイライラしているのすらかわいく思えてきます(笑)。それと同じように、僕らも学生に手を焼くことはありましたが最後はいろいろと理解してくれます」

立命館大学 学生部 スポーツ強化センターの百々遼さん

大学の部活に入る学生は、ある程度高校時代の成功体験があったうえで入部する人がほとんどです。自分が培ってきたものがベースになるからこそ、「右向け右」では動けないという選手もいます。しかしながら、自分にとって新しい何かを咀嚼して納得できるのは大学生という社会人の一歩手前という環境だからこそ、なのかもしれません。そして、その経験は競技だけにフィードバックされるものではありません。これからの社会人生活にも生かされる経験という意味でも、百々さんは厳しい世界で豊富な経験を積んだプロスポーツ選手をASICSがアサインするという関わりに大きな意義を実感しているといいます。

「通常であれば、昨年のキャプテンやOB・OGという選択肢になることが多いです。その点、ASICSの協力によって僕らでは叶えられないプロスポーツ選手の貴重な講演機会を得られる。今回の小野澤選手の講演も非常に良かったのでありがたいです。私がそもそもラグビーをやっていたので、小野澤選手はスーパーヒーローですし、非常に興味を持って聞かせてもらいました。もともとリーダー気質ではない方が、世界最高峰のキャプテンが入団してきたことによって、その人の背中を見ながら苦労して学んだ。その経験談が、今の学生に近いかもしれないなと重ねていました」

リーダーズキャンプイベント
小野澤さんの講演

もしかしたら、社会人になってからも気づくことがある。その時に学生たちがどう感じるのか。リーキャンを経験した後の成長が楽しみです。

リーキャンのダイジェスト映像はこちら

TEXT:Shota Kato PHOTO:Masuhiro Machida