リモートワークやあまり遠出ができないなかで、最近ランニングを始めたという声も耳にします。走るのが楽しくなってきたから、そろそろ大会に出てみたい!でも、いざ大会に出るとなると次々と湧いてくる不安や疑問。「マラソンのいろは」は、調べれば出てくるものの、自分のレベルに合った答えにたどり着けないこともありますよね。ランニングビギナーの素朴な疑問から久しぶりに大会を目指したい中級者の「わかっちゃいるけど、実際どうなの!?」といった疑問まで、「今さら聞けない」マラソン大会にまつわる質問にアシックスランニングクラブの池田美穂コーチが答えます!

池田美穂さん

【教えてくれた人】池田 美穂
アシックスランニングクラブコーチとして、東京マラソンなどの市民マラソンのほか、国内外の多くのレースに出場。アシックス直営店や全国各地で、市民ランナーへのランニング指導を行う。現在はアシックスジャパン株式会社でランニングのマーケティングを担当。

 

どんなペースで、どのくらいの距離を走ればいい?

マラソン大会に出てみたい、フルマラソンを目指したい!と意気込んだものの、いつものランニングだけでは完走できるか心配。どんな練習をすれば良いのか全くわからない時、大会までにどのくらいのスピードや距離で走っておけば良いのでしょうか。

――「ペースを意識して走ったことがない」「いまのペースで合っているのかよくわからない」など、モヤモヤしているランナーは少なくないと思います。マラソン大会に向けた練習では、どのくらいのペースで走れば良いのでしょうか。

完走が目標なら、目指している大会の制限時間から逆算して、余裕をもったペースがどのくらいなのかを把握することがまずは必要ですね。

――フルマラソンを完走するには、おおよそどのくらいのペースで、どのくらいの距離を走れるようになっておけばいい、といった目安はありますか?

フルマラソンの完走を目指すなら、15〜20km、できれば25km以上を、呼吸の上がらないペースで走っておくといいですね。目安は話しながら走り続けられるようなイメージです。初心者は特に、細かいペースよりも、「長時間動き続けられること」が大切です。目安は2時間。途中でトイレに寄ったり、休憩したりしてもOK! 休憩中にちょっとしたおやつや、エネルギージェルなどの補給食を試すことも、フルマラソン本番に向けたトレーニングになります。1時間、1時間半、2時間と少しずつステップアップしていきましょう。

――でも「まだ走りはじめたばかりで、5km以上は走れる気がしない……」という方もいると思います。そんな時、距離はどうすれば伸ばしていけるのでしょうか。

5km走れるのであれば、それよりもペースを落として距離を伸ばしてみましょう。コースを変えてみるのもおすすめです。例えば皇居は一周約5kmでも結構アップダウンがあるんです。公園など、高低差の少ないフラットな場所であれば、意外と長く走れるかもしれません。あるいは、3km+3kmでもOKです。3km先のカフェやパン屋さんなどを目指して走って、ひと休憩して、3km戻ってくるという方法です。

――ただ黙々と走り続けるのはしんどいけれど、お楽しみスポットやご褒美ポイントがあれば頑張れそうですね!

アシックスストアのイベントでは、15km走るメニューを5km×3セットに分けることがあります。たとえば、丸の内から赤坂まで行って戻ってくるコースでも、赤坂のカフェでお茶をして、六本木でアイスを食べて、帰ってきたら……アッという間に15km! 寄り道を含めて2~3時間ほどかかりますが、それでいいんです。いきなり15kmのペース走だなんてつらいじゃないですか。分割して走る方法は、なかなか距離を伸ばせなくて悩んでいる人や、長い距離が楽しめない人にもおすすめです。

――ランニングは継続が大事、わかっちゃいるけど・・・・・・仕事が忙しくて、全然走れない!そんな時は、どうすれば良いですか?

ぜひ、朝ランを取り入れてみてください! 夜に走ろうとすると仕事が長引いたり、疲れて億劫になってしまったり、なにかと予定が狂いがちです。学校や仕事に行く始まりの時間は決まっているわけですから、走りたい時間ぶん早起きすれば、他の予定に左右されることもありません。朝ラン仲間がいるとなお良いですね!

ビギナーでも完走できる、はじめてのマラソン大会の選び方

――マラソン大会デビュー!ビギナーでも完走できるレースはどのようにして選べば良いですか?

まずは制限時間をチェックしてみましょう。目安としてはフルマラソンで6時間半~7時間以上、ハーフマラソンで3時間あれば良いですね。もし初めてのレースなら、思い出に残るような楽しくにぎやかな大会がおすすめです。

はじめての大会選びのポイント

――大会前に同じコースを走っておいたほうが良いのでしょうか?

絶対必要ではないけれど、本番をイメージしやすいので走ってみてもいいですね。全部走るのではなく、コースの一部あるいはいくつかのパートを分けて走ってみてもいいでしょう。特に海外のマラソン大会では、車やバスを利用して下見に行っておくと安心ですね。

――練習はしているけれど、本番と同じ距離(42.195km)は走っていません。未知の距離に不安なのですが、いきなり本番で大丈夫でしょうか?

42kmという距離は、初心者には負荷が強すぎますので、むしろがんばって走ろうと意識しないで!前述のように、ゆっくりでも長時間動き続けられる練習を積み重ねていけば大丈夫です!

というのも、マラソン大会は、ランナーが走るためにさまざまなサポートが用意されています。コース誘導、エイドステーション、万が一の時の救護もあります。このような環境に加えて、たくさんのランナーと一緒に走ったり沿道からの応援を受けたりすることで発揮されるパワーは絶大!普段ならキツいところでもがんばれるんです。ですから、未知の距離でも走れてしまうものですよ。

――とはいえ、練習不足が気になる・・・大会前に長めの距離を走っておこう!それって意味がないですか?

練習不足かもしれない、と直前で走り込むのはNG! マラソンの練習はコツコツと積み重ねていくもの。直前で走っても走力は上がりません。ギリギリまで走って疲れが残った状態になるよりも、「健康な身体で元気にスタートをする」ことの方がずっと大切です。

――ランを再開するモチベーションにとマラソン大会にエントリーする人もいると思います。でも結局ずるずる練習できずに本番!なんてこともありがちです。

マラソンを走った経験があったとしても、やっぱり練習不足では苦しむことになると思います。そんな時は今の自分のレベルを把握して、割り切って適度なペースでゆっくり走ってみてはいかがでしょうか。同じ参加費なら、時間をかけてたっぷり満喫するのもマラソン大会の楽しみ方のひとつですよ。

【アイテム編】ランニングウォッチやシューズは買ったほうがいい?

シューズ

――マラソン大会に出るなら、やっぱりランニングウォッチを買ったほうがいいですか?

大会で自己ベストタイムを狙うくらい本気で挑むという人や、なるべく身軽に走りたい、という人はあったほうが良いですね。スマホを持たなくても距離や速度など、さまざまな情報が手元で分かるので、やはりスポーツウォッチは便利です。でも、ビギナーなら今の時代は「ASICS Runkeeper™」など無料のランニングアプリがあるので、まずはアプリを使ってみるところから始めても良いでしょう。音声ガイダンスでペースを知らせてくれる機能などもあり、とっても便利です。アプリ上で友人と繋がれば、モチベーションアップにもなりますよ。

――大会用にシューズは新調したほうが良いですか?

大会のために買うもののなかで、一番大切なものが「シューズ」です。かっこいいウエアやポーチを新調して楽しむことももちろん良いですが、必須アイテムをひとつ選ぶとすれば間違いなくシューズ! 足に合わないとケガや故障につながる恐れもあります。長距離を楽に走れるシューズ、負担の少ないシューズ、などさまざまな種類のシューズがあるので、ぜったい完走したい!という人は、ショップで相談し、自分に合ったシューズを履くといいですね。ただし、大会本番にいきなり新品で走るのはNG。本番1ヵ月前には購入して、履き慣らしておきましょう。

――シューズは完走をサポートしてくれる大切なアイテムですね。久しぶりに大会に出る人は、靴箱の奥からひっぱり出して用意することもあると思います。

もし今履いているシューズが3~4年前のものなら、買い替えたほうが良いでしょう。見た目には問題なさそうでも、目には見えにくいクッション部分が劣化していることもあります。最新のシューズを履けば気分も楽しくなるはず!

大会の前日~当日の過ごし方やトラブル対処法

――大会当日は何を持って走れば良いですか?ポーチは必要?水(ボトル)は持って行ったほうがいいですか?

スマートフォンを持ちたいならポーチはあるといいですね。揺れたり擦れたりすると走りにくいので、「ランニング専用」のものがおすすめです。ウエアに揺れにくいポケットが付いているランニングショーツもおすすめです。

水(ボトル)は、多くのマラソン大会は、数kmごとに給水所があるので、持たなくて大丈夫ですが、暑い時期に開催される大会や、給水所が少ない大会は気を付けましょう。その場合は、ランニング用でボトルが入れられるポーチがあると安心です(下の写真の右下のものなど)。

ポーチとランニングショーツ

――ビギナーでもジェルなどの補給食は持ったほうがいいですか?

フルマラソンなら持ったほうが良いですね!むしろ初心者のほうが後半で食べられなくなってエネルギー不足になる人もいます。特に気温が高い日は、気持ち悪くなりがちなので要注意。エイドに食べ物はありますが、自分が練習で食べ慣れているジェルはいくつか用意しておきましょう。

――大会当日は雨予報!雨の日のマラソン大会はどんな格好で挑めば良いですか?

ランニング用のキャップ(ツバのある帽子)があると良いですね。ツバがあるだけで、顔の周りの濡れを防ぐことができて雨でも視界がグッと良くなります。もし、朝から雨が降っていたら違うシューズを履いていき、直前で履き替えましょう。

――レインコートやビニールポンチョはあったほうがいいですか?

Tシャツの上にビニールポンチョ一枚ではスタート待ちの間にビショビショになってしまう可能性があります。雨が強い時や止む様子がない時は、ランニング用のはっ水ジャケットなどがおすすめです。冷え対策には手袋も大事です。アームウォーマーや手袋をうまく活用しましょう!

――ジャケットや手袋を脱いだ後はどうすれば良いですか?

ビニールポンチョなどはスタート後に捨てられるゴミ箱がある大会もあります。もしはっ水ジャケットを着るならランニング用のリュックを使っても良いと思います。

――脚がつったり、ケガをしたりしたらどうしよう……と心配です。

脚のつり、よくありますね!でもこればかりは、つってしまったら、いったん止まって、脚のつりがおさまってから、再スタートするしかありません。

それから、脚のつりや、膝が痛くなる理由にも目を向けてみましょう。練習不足の場合もありますが、多くのランナーはオーバーペースです。大会ではテンションが上がって楽しくなり、練習よりもずっと速いペースになりがちです。「30kmまでは調子が良かったのに……」は、30kmで終わってしまうペースで走っていたということです。無理は禁物!落ち着いて走りましょう。

将来、フルマラソンにチャレンジするには?

――いつかはフルマラソンにチャレンジしてみたい!次のシーズンに向けてどんなふうにステップアップしていくと良いですか?

短い距離の大会から順番にステップアップしていくといいですね。5km、10kmなどの大会から始めてマラソン大会で走ることに慣れていき、次にハーフマラソン、そして今秋〜来春のフルマラソンに出るならきっと自信を持って挑めると思います。

「今年こそ走るぞ!」
「いつかはフルマラソンを完走したい!」
「またPB(自己新記録)を目指したい!」

なかなかモチベーションが沸きにくいかもしれませんが、まずは走ってみたい大会を目標に、シューズやウエアも少しずつゲットしながら、練習を楽しんでみてはいかがでしょうか。いまこそ焦らずステップアップしていけるチャンス。遠い目標に思えるフルマラソンも、コツコツ練習を頑張って、完走を目指しましょう!

Text:Emma Nakajima
Photo:Tetsuya Fujimaki