スペインの強豪クラブにおいて、6歳から下部組織でプレーを続け、着々とキャリアを積み上げてきたセルジ・サンペール。彼が、ヴィッセル神戸へと移籍を決めたのは、2019年3月のことだった。チームの各世代で活躍を続けてきた若手有望株の突然の移籍は、多くのサッカーファンを驚かせた。子どもの頃から同じクラブで育ち続けた彼にとって、全く環境の異なる日本において、サッカーをはじめ、言語や文化の変化とどのように向き合っているのだろうか? 移籍から1年、彼が日本でのプレーや暮らしを通して、どのような心境の変化があったのか、新しい環境で暮らすためにどんなことを心がけていたのかを振り返ってもらった。

サッカーを楽しんでいたら、プロになっていた少年時代

祖父の勧めによってスペイン強豪チームの下部組織に入団したセルジ・サンペールは、すぐに頭角をあらわし、ユースチームへと加入。各年代でトップの実力を示し、2016-17シーズンにはトップチームへの昇格を果たした。その後スペイン国内のチームへの移籍を挟みつつ、前述のように2019年3月にJリーグのヴィッセル神戸へと加入。やわらかなボールタッチに、絶妙なタイミングで繰り出される正確なパス、世界でもトップレベルの実力を持つプレーヤーである。

しかしサンペール本人に言わせれば、そもそも最初からプロとして活躍できるとは思っていなかったという。

「僕としては、あの歳で強豪チームの下部組織でプレーできたのは夢のようでした。プロになれるとも思っていなかったし、その時々を楽しみながらここまで来た感じです」

自身についてはこう語るサンペールだが、名門チームの育成組織で過ごした影響は当然ながら大きかった。それは単純にサッカーの技術だけでなく、精神的な面においてもその影響は強く残っているという。

「あそこで多くの価値観を学びましたし、サッカーを理解する上で“名門チームの下部組織”でしか学べないことはたくさんありました。素晴らしい環境だと思います。サッカー選手としても人間としても、僕を育ててくれた場所だと思います。サッカーはチームスポーツなので、チームに所属しているプレーヤーがお互いに成長していくことが大事です。トップチームで活躍している下部組織出身の若手選手は、同じく下部組織出身のベテラン選手から多くを学んでいます」

スペインから日本へ。言葉や文化の壁を乗り越えるためにやっていること

そんなサンペールは、昨年3月からヴィッセル神戸でプレーを始めた。サッカーを始めてからずっとスペイン国内でプレーしてきた彼からすれば、突然の大きな環境の変化である。当然ながら、それなりに苦労はあった。

「僕としては、日本に来る決断をしたのはタイトルを取って自分のサッカー選手としての価値を再確認したいという気持ちからでした。もちろん言葉も通じない環境で、最初は難しさもありました。子どものころから育ってきた場所や、家族や友人と離れて新しい環境に来ることは不安でした」

さまざまな困難を抱えての生活だったが、サンペールにはヴィッセル神戸のスタッフやサポーターたちの支えがあった。1年が経った今、彼には日本語を学ぶ余裕も生まれている。

「日本の皆さんが本当に親切で、僕が環境に慣れるために、多くのサポートをしてくれました。もちろん生活や文化の違いはあるので、僕自身も情報を仕入れてその違いを理解することには気を配りました。あと、時間の経過も大きかったです」

「最初はケガ明けで日本に来たということもあって、コンディションやパフォーマンスの難しさもありましたが、特に去年の後半戦以降は、神戸での生活やサッカーそのものを楽しめるようになりました。すごくいい調子でプレーできていますし、今は本当に神戸での生活を満喫しています」

サンペールのポジションはミッドフィールダー。チームのメンバーとのコミュニケーションも非常に重要なポジションである。日本の選手たちとの意思疎通はどのように行なっているのだろうか。

「サッカーの言語は世界共通なところがあるので、ピッチ上ではそこまで困ることはありません。ジェスチャーで大体通じますし、ちょっと難しい話の時は、通訳も入れて会話しているので、コピッチ上のコミュニケーションということに関しては、概ね満足していますね」

「最近は、日本語のレッスンも受けていて、できるだけたくさん日本語の単語を学びつつ、そういうものも使いながら会話できるように心がけています。最近言えるようになった日本語は“ちょっと待ってください”ですね(笑)」

スペインと日本で異なるピッチ環境とスパイク選び

スペインと日本で異なるピッチ環境とスパイク選び

今年の1月にサンペールはアシックスと契約し、同社のスパイク「ULTREZZA AI」を着用している。スパイク選びに関しては、ヴィッセルでの先輩であるイニエスタからの評価も決め手になった。

「アシックスのスパイクについては、足とスパイクが一体となっているような感覚だとか、プレー中もスパイクを履いていることを忘れるような履き心地だとか、いい評判をいろいろと聞いていました。特にイニエスタからもポジティブなフィードバックを聞いていたので、そういった情報がスパイク選びの理由になりました」

スペインと日本で異なるピッチ環境とスパイク選び

現在履いているスパイクに関しても、サンペールは感想を教えてくれた。

「すごくいい感覚です。初めて履いた時からフィット感や感触がよかったですし、全体的にいい履き心地で、新しいスパイクに慣れるまでそんなに時間もかからなかったですね。僕のポジションは、攻守の両面に関わることが多く、ディフェンダーの前でボールを動かしてリズムを作る事が求められます。そう言った点で、このスパイクは、スムーズなターンや、さまざまな方向への足運びをサポートしてくれる頼れる存在です」

長らくスペイン国内のリーグでプレーしてきたサンペールからすれば、日本のピッチはそれなりに環境が異なったはずである。それによって、着用するスパイクも変わっていたはずだ。

「日本の芝は、全体的にヨーロッパよりも乾いているイメージがあります。だから基本的に、取り替え式のスパイクを選ぶ必要はないですね。ただ唯一、夜にプレーするときはピッチが滑りやすいこともあるので、スパイクのチョイスには気を使う必要がありますね。そういう意味では日本の全てのピッチに対応したスパイクというのはないと思っていますし、それぞれの環境に最適なものを選ぶべきだと思っています」

サンペール選手着用スパイク「ULTREZZA AI」についてはこちら

目の前のことを楽しみ、自分を信じることを忘れないで

神戸でプレーするようになって1年。環境の変化を乗り越えた先の今後の目標について、サンペールに尋ねてみた。

「僕としては、日本に来る決断をしたのは“タイトルを取って自分のサッカー選手としての価値を再確認したい”という想いからでした。そういう意味では、もうタイトルも取れたので1つ目の目標はクリアしたと思います。次はこのチームでのリーグ優勝も果たしたいですね。AFCチャンピオンズリーグ2020での優勝もできれば嬉しいですし、挑戦したいことは、たくさんあります」

最後に、スペインから日本という、全く違う環境に踏み出したプレーヤーとして、春から新たな環境でサッカーに向き合う学生たちへのメッセージをもらった。

「まず、目の前にあること、これからやることを楽しめるといいと思います。自分を信じて、最後まで戦ってほしいですね。また、どんな状況にあっても、良いコンディションを保つためには、栄養や休息をしっかりとることが大切です。ケガの予防に関しても“これだけやればいい”といったポイントはありません。つねに自分の状態を客観的に 見て、何をすべきかを考えることが大事だと思います」

幼少期から常に最前線でプレーし、新しい環境に飛び込むことを厭わなかった選手らしい、重みのある言葉である。周囲のサポートを味方につけつつ、環境それ自体を楽しむこと。それこそが、サンペールが20年にわたってサッカーを続けてこられた秘訣なのかもしれない。

 

Sergi Samper (セルジ サンペール)
1995年スペインカタルーニャ州バルセロナ生まれ。6歳でスペインの名門FCバルセロナに加入後、一度も脱落することなくトップチームまで上り詰めた。2016–17にグラナダ、2017–18にはラスパルマスへのレンタル移籍を経験。2019年、バルセロナ時代の先輩であるアンドレス・イニエスタ、ダビド・ビジャの後を追いヴィッセル神戸の一員となる。名門クラブ仕込みの繊細なボールタッチ、素早い状況判断から繰り出される正確なパスで、日本のサッカーファンを魅了している。

 

Text:Shigeru
Photo:Tetsuya Fujimaki