「チアリーディングは、女性の競技」そんな認識が、日本にはまだ根強く残っている。しかしもとを辿れば、19世紀後半にアメリカで行われたアメフトの試合で、プリンストン大学の男子学生たちがプレーヤーを勇気づけるために応援したことが始まりという説もあるとか。いま、日本で“チア男子”界を牽引するのが、早稲田大学公認同好会であるSHOCKERS(ショッカーズ)。彼らは数多ある部活動やサークルのなかからなぜチアを選んだのでしょう。男子チアリーディングの魅力とともに、その理由を聞いてみました。

今回お話を聞いた、副代表の岡村希一さん(ニックネーム:ドリモゲモン)と、代表の嶋田基弘さん(ニックネーム:モロッコ)。

目次

2004年結成。早稲田の期待のチア男子集団「SHOCKERS(ショッカーズ)」

9月25日に開催された『SHOCKERS STAGE 2019』のリハーサル風景の一部。リハーサルでは難易度の高い技を繰り返し練習しており、回を重ねるごとに完璧な姿に近づいていく様子がとても印象的だった。

SHOCKERS(ショッカーズ)は、日本初の男子学生だけで組まれたチアリーディングチーム。朝井リョウの小説『チア男子‼』のモデルとなっただけでなく、2018年の紅白歌合戦に出演を果たすなど、発足15年目にしていっそう注目を集める存在となっています。

ショッカーズのメンバーは、大学からチアリーディングを始めたという学生がほとんどだそうですが、アクロバティックで本格的な演技はもはや“同好会”の域をはるかに凌駕しています。今回は、嶋田基弘さん(ニックネーム:モロッコ)と、岡村希一さん(ニックネーム:ドリモゲモン)に、男子チアにかける想いを聞いてみました。
ショッカーズをはじめ、早稲田大学のサークルにはニックネームを付ける文化があり、「3年生または最高学年になってもお互いの本名を忘れてしまう」というほどニックネームが浸透しているそうで、今回のインタビューも本名ではなくニックネームでお届けします。

まるでサーカスのような男子チアに魅せられて。

ショッカーズの代表を務める嶋田基弘さん(ニックネーム:モロッコ)。高校時代からチア一筋で、代表として50名以上ものメンバーを束ねる。

――早稲田大学にはいろんな部活や同好会がありますが、お二人がSHOCKERSに入ったきっかけは?

モロッコ(嶋田さん) チアは大きく「競技チア」「応援としてのチア」の2つにわけられます。僕は高校から競技チアをやっていたのですが、入学後にいろいろな団体を見ていたなかで、ショッカーズのショーを見て“面白おかしさ”もあるパフォーマンスに感動し、入部することにしました。バク転をしたり空中で舞ったりする姿は、チアというよりサーカスを見ているようでした。

ドリモゲモン(岡村さん) 中高と陸上部に所属していたため、その時はチアとの接点は特にありませんでした。ただ、当時から自分が記録を出せることよりも、仲間の嬉しそうな顔を見るほうが好きでした。大学生になって初めてショッカーズのショーを目の前で見て、まさに僕がやりたい“人を笑顔にする”ことをしている団体だなあ、とハッとしました。一人で記録を追い求めるのも良いけど、お客さんに一人ひとりにアピールするスタイルの競技も良いなと。メンバーになった今、僕らのパフォーマンスを見て「良かったよ」と言っていただくことが一番嬉しいです。

ショッカーズの副代表を務める岡村希一さん(ニックネーム:ドリモゲモン)。中高では陸上部に所属し、インターハイをはじめとした全国大会で活躍していたという経歴を持つ。

――ショッカーズは、パフォーマンスや競技性もですが、応援の要素も大きいように感じます。男子チアに出会う前に、応援が持つ力を感じたことはありますか。

モロッコ サッカー部に所属していた中学生の頃のことです。僕たちの学校には、一年生の部員は公式試合にあまり出られないぶん、先輩の応援歌を作ってプレー中に歌う文化があったんです。そして、いざ僕自身がプレーヤーとして試合に出たとき、意識はゲームに向いているんですが、大事な試合中は応援の声がいつも以上にグラウンドまで届いてきたんです。実際に声量が大きいのか、こちらの精神状態によるものかはわかりませんが、その時に応援のパワーを感じました。

ドリモゲモン それ、分かるかも。パフォーマンスに集中していると、なんとなく高ぶるときってあるんですよね。僕はインターハイなどの大事な試合に出た時に思ったのが、会場が大きくなればなるほど四方八方からいろんな声援や物音がするのに、走り出すと、僕に向けられた仲間の声援と自分の呼吸の音以外はほとんど聞こえなくなるんです。仲間の声だけがクリアに聞こえるので、安心して走ることができました。

モロッコ その感覚はショッカーズに入ってからもよく感じますね。チアリーディングは集中してやらないとケガのリスクを伴います。だから身体的にも精神的にも疲労感はつきものですが、演技をしていてもなぜか疲れない日があるんです。それは、仲間の演技が決まっていることを感じるときです。たとえ自分から見えなくても、同じステージに立っていると、なんとなく伝わってくるものがある。そういう時ほど、応援のボルテージも高まりますし、キツい技すらもキツく感じなくなるんですよ。

キラキラして見えるチア男子の、見えない素顔。

早稲田大学とアシックスでは、2016年から包括的な提携を結んでおり、スポーツ分野を中心に、用具の提供や新製品の開発などに共同で取り組んでいる。ショッカーズのウエアの一部も早稲田大学×アシックスの一環で制作されている。

――SHOCKERSはイベントなどで“魅せるチア”を行うことがメインである一方で、“応援”に主眼を当てた演技を求められることもあるようですね。

ドリモゲモン はい。早稲田の体育会や他のチアリーディングチームに向けてパフォーマンスすることもあります。普段、僕たちがやっている“エンターテインメント性の高い演技”をするときとはまた違うエネルギーをメンバー達から感じます。でもショッカーズに限らず、早大生には全力で何かをやることを恥じないマインドがあるような気がします。20歳前後になると「え、そんなアツくやるの?」みたいな、斜に構えてとらえる人も少なくないと思いますが、早稲田の体育会やサークルにおいてはそんなムードは感じません。そんなところが早稲田の魅力だと思います。

モロッコ たしかに早大生には何かに対して全力投球な人が多い。だからこそ、悩むことも当然あります。僕の場合は、難しい技がなかなか習得できなかったり、前はできていた技ができなくなったりするとやっぱり辛いですね…。それでもショッカーズをやめたいと思ったことはありませんが。

ドリモゲモン 僕はショッカーズに入ってすぐ「男子チア、自分にはできないかも」と悩んだ時期もありました。やっぱり先輩達の技術に圧倒されましたし、加えてお客さんへのアピールもこなれていて、キラキラして見えたんです。でもその気持ちを先輩に打ち明けると、「一人ひとりに個性があって、生かせるものは絶対ある」と励まされました。

モロッコ だからこそ、僕らの代のスローガンは“百花繚乱”。一人でできることは限られているかもしれませんが、メンバーそれぞれの持ち味を活かせばいろんなパフォーマンスができるはず。僕自身、もっと進歩していきたいです。

応援する側となってから見えてきた世界。

『SHOCKERS STAGE 2019』でのステージ風景。アクロバティックなパフォーマンスはもちろん、プロ顔負けの音響・照明の演出などは、すべて早稲田大学の学生団体を中心に行われているという。

――二人の男子チアにかける熱意から、ショッカーズの創業時からのテーマ“日本を元気に、世界を笑顔に”というバトンが代々継がれてきたことを感じます。

モロッコ ショッカーズの持ち味は“見ていて面白いチア”です。技術の高さだけでなく、豊かな表現力が僕たちの強みです。これは言語が違う人が見ても、きっと届くものだと思います。

ドリモゲモン 僕たちが壁をつくってしまうと観ている方も心のどこかでそれを感じ取ってしまうものだと思います。だからこそお客さんを巻き込めるパフォーマンスをするには、僕たちが常にオープンでいることを大切にしています。

モロッコ 応援をする時は“僕たちの一体感を感じてください!”という思いで演技をします。一方、パフォーマンスで観客を魅せたいときは、お客さんの一人ひとりと目線を合わせて、コミュニケーションを取ることを試みます。それぞれ、ベクトルが違うんですよね。

ドリモゲモン 両方を突き進めることが僕らの今の目標です。陸上部だった中高時代、自己ベストを更新することよりも、その結果によって友達を笑顔にできた時が何より嬉しかった僕にとって、男子チアをできることは幸せです。

――誰かを応援したい。笑顔にしたい。ただその一心で男子チアに取り組む二人の言葉には、“大切なこと”が秘められているように感じました。

モロッコ 先日、ショッカーズのメンバーと電車に乗っていた時、おじいさんがよろけた瞬間、反射的に手を差し出していたんです。決してこの話を美談として話したい訳ではないんですが、ふと“助け合おう”って気持ちは誰かを応援するってことに近いのかも、と感じました。チアを始めてから僕自身も日常の見え方が変わったのかもしれません。

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TEXT:Nao Kadokami
Photo:Tetsuya Fujimaki