技術の向上を目指して、日々練習に明け暮れている部活生も多いのでは?

「闇雲に練習をするのではなく、なぜその練習をするのかを考えることが向上への近道です」と話すのは、ジェイテクトSTINGSでプレーをするプロバレーボール選手の柳田将洋選手。次世代アスリートを育成する「THE MATES(ザ・メイツ)」でバレーボール教室を行う柳田選手に、教室終了後、部活生に向け、練習への取り組み方などを伺いました。

部活生時代は「どんな相手に対しても得点できること」を常に考えて練習していた

柳田将洋選手

――柳田選手は高校時代には、主将を務めて、全国大会で優勝も果たしましたが、部活生時代、どんな練習を心がけていたのでしょうか?

入学した当初は、全国大会には進むものの上位に食い込むことはできない状況でした。

だから「自分の代で勝ちたい」「スパイカーとして自分が一番点を取りたい」と思ったときに、どのような練習をしたらいいかを常に考えていました。

中学生や高校生であれば、僕と同じように思っている人も多いと思うのですが、周りには自分よりレベルの高い選手がたくさんいますよね。彼らに勝つためには、少なくとも自分がうまい選手と肩を並べなくてはいけない。どんな相手に対しても得点を決められるように「自分の強みは何か?」「練習試合ではなぜ得点ができなかったのか?」「得点の確率を上げるためにどうしたらいいのか?」などを考えながら、日々練習をしていました。特に高校のときの監督は型にはめて指導をするタイプではなかったので、自分の頭でしっかりと考えて、練習をしていました。

――考えて練習することでレベルは向上しましたか?

徐々にですが変わってきたと思います。もちろん、ときには失敗もしましたが、結果もついてきて、それが自信になって、新しい結果を生み出すことにつながりました。

あと、もっとうまくなりたいと思うところがたくさんあるなかで、「自分はどういう選手になりたいのか?」という目標を掲げることは大切です。僕も多少の軌道修正はあったものの、掲げた目標の大枠はずっと変わっておらず「現役中に達成できるかどうか」というとても高いハードルを設定しています。今でも自分ができているとは思っていないからこそ、意識しながら練習をできるし、結果につながっていると感じています。

強いチームづくりのポイントは、お互いの役割を理解すること

柳田将洋選手

――バレーボールでは個々のプレーだけでなく、チームの結束も大事ですよね。柳田選手は日本代表でもキャプテンを任されましたが、キャプテンとして強いチームをつくるために何か意識をされていましたか?

キャプテンだからといって特別に何かを意識することはありませんでした。まずは自分が1人のプレーヤーとして周りの選手をどれだけ助けられるかというところに常に気を置くこと。それはキャプテンでなくても一緒です。ただ、キャプテンになったらその姿勢を率先して見せていくべきだとは考えていました。

――では強いチームは何が違うと思いますか?

チームメイト全員が、自分の役割と他の選手の役割を理解していることですね。

例えば攻撃のときに「他の人が行くかもしれないけど、行かないかもしれないから自分が行く」となったら、スムーズな攻撃につながらないですよね。ディフェンスも同じで、ひとつのボールに3人がカバーに入ったら、攻撃をできる選手が少なくなってしまう。強いチームは、そういった動きが円滑にできています。

――お互いが役割を理解するためには、どういうことをしたらいいのでしょう?

うーん……。阿吽の呼吸で行うのは難しいし、どうしても時間がかかります。だからルールやシステムをチームの中で作って、しっかりと共有すると自分の役割を明確にしやすいと思います。そのためには練習後に自分たちのプレーを見返して、「これは誰のボールだよね」と確認する作業をすること。実は、練習や練習試合をする意味というのはそこにあるんです。もし自分たちの役割を確認しないのであれば、極論ぶっつけ本番でもいいわけですから。

これはよく見落とされがちなのですが、僕たちは健康になりたくて運動をしているわけではなく、バレーボールが上手くなりたいから練習をしていますよね。だからこそ、言われたままに動くのではなく「なんでこの練習をしているんだろう?」と考え、「競技を上達させるためにこの練習が必要なんだ」と、目的意識を持って理解をすること。これはバレーボール選手だけではなく、競技者全員に共通して必要なことだと思います。

体づくり・セルフマネジメントについては「もっとできたはずだ」という悔いもある

柳田将洋選手

――考えることが大切だということがよく分かります。ところで柳田選手は学生時代、体が大きいほうではなかったと聞いています。同じように悩んでいる部活生も多いと思うのですが、改善のためにどんなことをやっていましたか?

これは「もっといろいろな情報を吸収する意識が高ければ……」と悔やんでいることですね。

――例えばどういうことでしょう?

ひとつは食事です。高校時代の僕は少食で、身長は今とほとんど変わらないのに、体重は20kg近く軽かったんです。もっと食べないといけないと思っても、食べられないから「なんで食べなきゃいけないんだ」とどうしても気持ちがネガティブになってしまう。だけど、ノウハウをきちんと学べば、一度にたくさん食べられないのであれば、食事の回数を増やせばいいと気づけます。自分が何を食べにくいのかが分かれば、違う食べ物で栄養を補うこともできますよね。

もうひとつはトレーニングです。僕が通っていた高校はダンベルなどもありましたが、知識がなくて、どうやって体を鍛えればいいか分かっていませんでした。そのため、膝の痛みが強くなってジャンプできないことなどもよくありました。中学生から高校生にかけては、体が大きく変わる時期なので、成功する可能性も無限大ですが、体が壊れてしまう可能性も高い。そのリスクを減らすためにもトレーニングが大切ということを覚えていてほしいですね。

あとはウオームアップやクールダウンの重要性です。僕が高校生のときは体が動けばいいという考えだったので、あまりしっかり取り組んでいませんでした。それでも若いから動けてしまうんです。

だけど、ずっと競技を続けたいと思ったときに、何年も同じ動きができるかというと、成長する場合もあるけれど、どこかに痛みを抱えてしまう可能性も高い。僕の場合もやっぱり慢性的な痛みを抱えてプレーをしていました。自分の力が100あるとして、蓋を開けてみたら90のときも40のときもあると思います。その振り幅をなるべく100に近づける準備、そしてケガのリスクを減らして、長くプレーを続けていくために、ウオームアップやクールダウンがあると思ってください。

柳田将洋選手

部活生たちがセルフマネジメントをするのはとても難しいと思います。ただ、今はネットで検索をすれば、栄養学やトレーニング方法をいくらでも見ることができますから、自分から興味を持って取り組んで欲しいですね。自分の体のことが分かれば、自分にとってのベストコンディションが作りやすくなりますから。これは高校時代の僕にも言ってやりたいですね(笑)

――現在、気をつけていることはありますか?

いろいろと気をつけていることはありますが、自分の感覚は一番大事にしています。例えば2年ほど前に体脂肪を落としたことがあるんです。数字や見栄えは良くなったのですが、ラリーが続いたときにパワーが出ないし、息が切れて脚が動かない。結局、他人にとってのベストは、僕にとってのベストではなかったんです。

自分にとって適正な体脂肪率はどこなのか、骨格筋量はどれくらい必要なのか。バレーボールのために動ける体を作るのが目的なので、自分を変化させるときは、数字だけを追うのではなく、自分の感覚をリンクさせるように気をつけています。

THE MATESで伝えたい現役アスリートのスキルと経験

――現在、THE MATESで部活生たちにバレーボール教室をされていますが、どういった想いを持って活動されているのですか?

まず、今僕自身が持っているスキルや経験を、現役でプレーしている間に若い競技者に還元したいという想いがあります。また、僕自身は形式的には教える側になりますが、一方で「教える側の立場」を学ばせてもらっています。教える・教えられるという概念ではなく、参加者全員がともに成長できる学びの場としてTHE MATESを有意義なものにしていきたいと考えています。

――技術面ではどんなことを教えられているのでしょうか?

なかなか言葉で伝えるのは難しいのですが、ひとつ挙げるとすると、若い選手は体ができあがっている途中なので、アタックやサーブでバレーボールを力強く打とうとするとどうしても手打ちになってしまう選手が多いと感じています。ただ、一番強く打たなくてはいけないときに使うのは、手でも肩でもなくて、体全体です。少し体をリラックスさせて、体のバネを使って打つように意識した練習を繰り返すことをおすすめします。

柳田将洋選手

手打ちになるとボールがコントロールしにくかったり、パワーがのっていると思っていても実際は違ったりすることも出てきます。また手や肩で強く打とうとすると将来的に、肘や肩を痛めることにもつながりかねません。もちろん手打ちが必要なシチュエーションは出てきますが、体全体を使って力強く打つことを習得したうえで、手で打つという選択ができるようにしましょう。

練習だけでなく道具も突き詰めて考える

――プレーの上達だけでなく、ケガを予防するためにもひとつひとつの動作を考え抜いて練習することは大切なんですね。アイテムにもこだわりはありますか?

そうですね。特に僕がこだわっているのがシューズです。バレーボールはツイストする動作やステップが多く、僕は足首の捻挫をすることがすごく多かったんです。アシックスのSKY ELITE FF MT 2は、ソールが床にしっかりと接地するうえ、足全体を守ってくれるようなフィット感があって、安定性に優れています。さらに跳んだあともクッショニングがしっかりとしているので、次の動作に入りやすい。衝撃を緩衝してくれるので、体を守ってもらっているという感じでプレーできています。僕はこのシューズじゃないとダメというぐらい信頼しています。

柳田将洋選手

――毎日の練習の負担も考えて、信頼できるシューズ選びをすることも大切なんですね。

本当にそうですね。僕は一流の選手というのは、自分にとってベストの練習やコンディショニングを継続できる選手だと考えています。

部活生にとっては遠い道に思えるかもしれませんが、それが一番の近道なんです。今の若い選手たちが頑張れば、僕ぐらいは超えられる壁だと思いますので、これからいろいろなことを吸収して、練習を積み重ねていってほしいですね。

柳田将洋
1992年7月6日生まれ。
東洋高等学校在学中の2010年3月 第41回全国高等学校バレーボール選抜優勝大会に主将として出場し優勝を果たし、2011年慶応義塾大学へ進学。2013年に全日本メンバーに登録され、2014年10月、Ⅴプレミアリーグ・サントリーサンバ―ズに入団。2015/2016シーズンレギュラーラウンドでは、最優秀新人賞に輝いた。2017 年4 月にサントリーサンバーズを退団しプロ転向を発表。同年5 月にプロバレーボール選手として、ドイツ・Volleyball Bisons Bühl(バレーボール・ビソンズ・ビュール)と契約締結。2020 年、V.LEAGUE・サントリーサンバーズに3 年ぶりに復帰し、2連覇に貢献。自身も2年連続ベスト6に輝いた。2022年V.LEAGUEジェイテクトSTINGS と契約締結。

Photo:Seiya Kawamoto、Tetsuya Fujimaki
TEXT:Junko Hayashida(MO'O)