東京・上野に店舗を構えるスニーカーショップ『mita sneakers』は、スニーカー好きなら知らぬ者はいない存在だ。下駄や草履の製造販売をルーツに持つ同店は、1980年代、アメカジ文化の流入とともにスニーカー専門店へと鞍替えし、1990年代はマニアのツボを心得たセレクトで当時のスニーカーブームを牽引。2000年代以降はさまざまなブランドと積極的にコラボレーションや別注を展開し、近年は国内のみならず日本を代表するスニーカーショップとして海外のスニーカーフリークからも熱い注目を浴びている。


そんな『mita sneakers』がこのたびアシックスと初のコラボレーションモデルを発表した。アシックスのランニングシューズ「GEL-KENUN」をベースにアレンジを加えた「GEL-KENUN SHINKAI」である。『mita sneakers』はこれまで数多くのブランドとコラボレーションを行ってきたが、新しいテクノロジーを搭載したパフォーマンスモデルをベースにするのは今回が初めてのこと。


なぜ両者はコラボレーションに至ったのか? 今回のコラボレーションモデルに込められた思いとは? そして『mita sneakers』のクリエイティブディレクターを務める国井栄之の目にアシックスというブランドはどのように映っているのか? 『アシックス 原宿 フラッグシップ』のオープン前々日に開催されたトークイベントにおける国井の言葉からそれらを紐解いていく。

国井栄之

国井栄之 / mita sneakers クリエイティブディレクター

1976年生まれ。1996年より『mita sneakers』にスタッフとして参画し、後にクリエイティブディレクターとして同店を率いる立場に。さまざまなメーカーやブランドと別注やコラボレーションを数多く手掛け、国内外のスニーカーフリークから注目を集めている。手に持っているのが『mita sneakers』とアシックスのコラボレーションモデル「GEL-KENUN SHINKAI」。



トークイベントの様子

『アシックス 原宿 フラッグシップ』のオープン前々日、2017年10月4日に行われたトークイベントの様子。左から、横山順一(アシックスジャパン株式会社 プロダクトマーチャンダイジング部)、国井栄之(mita sneakersクリエイティブディレクター)、榎本一生(SHOES MASTER編集長)、阪上直樹(株式会社アシックス デザイン部)、北本桂士(株式会社アシックス デザイン部)

アシックスとコラボレーションするのが夢だった

「アシックスとコラボレーションすることは、僕にとってかねてからの夢のひとつでした」。国井は熱を込めてそう言う。『mita sneakers』はこれまで、ライフスタイルブランドとして位置付けられているアシックスタイガーやオニツカタイガーとコラボレーションを行ったことはあった。スポーツブランドであるアシックスとのコラボレーションは今回が初となったわけだが、アシックスは国井にとって特別な存在であったようだ。


「“本気ならアシックス”という有名なキャッチコピーがありますが、僕にとってアシックスはまさにそのイメージ。子どもの頃からスポーツに真剣に取り組んでいる人はアシックスを履いている印象が強いです。僕が改めて言うまでもなく、アシックスは日本を代表するスポーツブランドであり、そんなアシックスと今回このようなかたちでプロジェクトをともにできたことを光栄に思います」

雑談から生まれるクリエイション

念願かなって実現したアシックスとのコラボレーション。どのようなプロセスを経て、GEL-KENUN SHINKAIが生まれたのだろうか。


「アシックスとコラボレーションすることが決まって、最初に担当者と打ち合わせをする際、あえて事前に深く考えたり調べたりせず、ゼロの状態で臨みました。そして、コラボレーションのベースのモデルであるGEL-KENUNの開発担当者にも同席していただき、雑談を交えながら、どういう意図や経緯を経てこのモデルが作られたのかを根掘り葉掘り教えてもらいました」


国井はコラボレーションを手掛ける際は例外なく、そのモデルにまつわるストーリーを込める。そして、選んだ色やデザインには必ず意味を付加する。「流行っているから」「気分だから」といったノリでアレンジすることはない。今回のGEL-KENUN SHINKAIも然り。まずは雑談混じりの打ち合わせからスタートし、まっさらな状態からベースのモデルの知識や情報を頭に叩き込み、イメージを膨らませ、構想を練り上げていった。

巻雲に対する深海。対極の存在をコンセプトに

「アシックスの開発担当者との打ち合わせのなかで、モデル名の“KENUN”が、もっとも高いところにある“巻雲”という雲に由来すると教えてもらいました。それを聞いて、逆に、パフォーマンスシューズから一番遠いところにいる僕たちとしては、シーンの外から、そして下から突き上げる役割として、その対極に位置する存在でありたい、という話をアシックスの担当者とざっくばらんにしていて。そのなかで、ふと思い出したんです。古代の深海に生息したとされる伝説の巨大鮫、メガロドンのことを。そういえば、昔のドキュメンタリーで観たなあと。巻雲に対して深海。まさに対極の存在ですよね。そんな話をアシックスの担当者にしたら、“ああ、僕もそれテレビで観たことありますよ!”という感じで異常に盛り上がって。そのとき、アシックス社内のお偉いさんが横を通りかかったのですが、“なんでこの人たちは鮫の話で盛り上がってんだ?”と不思議に思ったはず(笑)。それはさておき、そこから先はトントン拍子でプロジェクトが進んでいきましたね」

Gel Kenun Mita SHINKAI

伝説の巨大鮫、メガロドン。雑談のなかで出てきたそのワードから、両者のクリエイションは広がっていった。カラーは深海をイメージした深みのあるネイビーが採用され、ノコギリ状の歯やエラをイメージしたグラデーションのグラフィックをアッパーにプラス。また、その背びれや尾びれにインスパイアされたシュータブをかかとに配し、鮫が夜行性であり暗闇で身体を発光させるという生態を活かし、昼と夜で別の表情を見せるグローインザダークのスペックルプリントをミッドソールに施すなど、メガロドンをモチーフにしたアレンジを随所に加えた。そうしてできあがったのが、今回のmita sneakersとアシックスによる初のコラボレーションモデル、GEL-KENUN SHINKAIなのだ。

機能性を保ちながら、ストーリー性を高める

「アシックスとの取り組みは初めての試みだったが、とてもやりやすかったですね」。今回のプロジェクトを国井はそう振り返る。


「新しいテクノロジーを搭載したパフォーマンスモデルをベースにしたコラボレーションは今回が初めてでしたが、デザインやファッション性を優先して機能性を損なうということはしたくないという思いが僕のなかにありました。そのため、機能性を保ちながら、ストーリー性やデザインソースを体現できるよう、アシックスの担当者のみなさんとディスカッションを重ねました。日頃からスニーカーに接している僕でも初めて知ることが少なくなく、さすがプロだなあと感心することしきりでしたね。また、メガロドンに関する雑談をしているときも、アシックスのデザイナーさんはその場でペンを取ってデザインスケッチを描き始めて驚かされました」


スニーカーショップとスポーツブランド。近いようで実は遠い存在の両者が手を組むことで、それぞれが予想もしていなかった化学反応が起こった。これこそコラボレーションの本来あるべき姿と言えるだろう。


「今回のコラボレーションモデルは、日頃からランニングをしている人に履いてもらいたいのはもちろんですが、スニーカーが好きで、いままで走ったことのない人にも、走るきっかけやインスピレーションを与えられたら喜ばしい限りですね」

国井栄之

夢には必ず続きがある

最後に、アシックスとの取り組みの今後の展望について、国井は期待を込めて次のように語る。


「今回僕としては夢がひとつかなって、感無量です。でも、夢には必ず続きがあると思っています。これからも、みなさんが驚くことを、そしてまだ僕自身が描いてないようなことを、アシックスといっしょに具現化していけるといいですね」


GEL-KENUN SHINKAI

Text:Issey Enomoto(SHOES MASTER 編集長)