ランニングを始めてみたものの思いのほか辛くて続かないという人も少なくありません。また、ランニング中上級者でも、時には「走りたいのになんだか億劫になってしまう」「走り出すきっかけがないと続かない」と感じることもあるでしょう。

その原因は、体力や走力に合わない走りにあるかもしれません。レベルに合った走り方を探すのに便利なのがデータの活用です。まずは現状の能力を定量化し、自分にとってムリのない走り方を知ること。そして、日々の走りをデータとして記録することで、自分に合ったペースや練習量、走行距離や消費カロリーがわかるため、やみくもに走るよりも、モチベーションを保ちやすくなります。

どんなデータが、日々の走りに活かすことができるのでしょう?「最近あまり成長が感じられない」というランニング中級者のライターがアシックススポーツ工学研究所を訪れ、ランニングにおけるデータ活用のメリットや具体的な活用方法を聞いてきました。

ランニングが思うように続かないワケ

データの計測や走り方のアドバイスをしてくれた、アシックススポーツ工学研究所の平川菜央さん。自らも市民ランナーとして走りながら、楽しく効率よく走る方法を研究中。

まだランニングを始めたばかりの頃、最初は走る楽しさや気持ちよさがあったのですが、続けるうちに走り方やペースがよくわからなくなり、辛いと感じることがありました。こうなると、ランニングを習慣化するまでに何度も「今日は走るのをやめようかな」という気持ちが出てきます。これは、ランニングビギナーによくあることなのではないでしょうか。

また、ある程度走れるようになった今は、いつもの距離や練習はこなせるものの、今度はラクに走れるようになっただけで、どうもランナーとしての成長が感じられないのです。そのせいか、新たな目標もできず練習を続けるモチベーションがわかなくなることもあります。

そんな悩みを抱える私が、アシックススポーツ工学研究所を訪れ、さまざまなデータを測定してもらい、ランナーとしてステップアップするために大切なことを教えてもらいました。

今回、話を聞いたのは、アシックススポーツ工学研究所の平川菜央さん。平川さんによれば、ランニングを長く続けるためには、「無理なく効率よく走ること」「ケガをしないこと」の2つが大切だと言います。この2つを実現するために、2種類のデータを計測してもらうことにしました。

<1>全身持久力測定:無理なく、効率よく走る

走るペースが速くなると、おのずと呼吸も足もつらくなりますよね。平川さんによると、これは有酸素運動と無酸素運動に関係があるそうです。

「ゆっくりペースでは、おもに脂肪が燃焼されることで、エネルギーが産み出されます。このとき、体内に取り込んだ酸素が消費されるため、有酸素運動と呼ばれます。いっぽうで、ペースが上がり辛くなってくると酸素の取り込みが追いつかなくなり、身体のなかに蓄えられている糖を使って走る無酸素運動になります。糖が分解されて血液中に乳酸が過剰に蓄積され始めると、運動に必要なエネルギーを産み出しにくくなります。

つまり、有酸素運動で走り続けることが効率的に長く走り続けるうえで大切になってきます。ダイエット(脂肪燃焼)目的であれば、有酸素運動の範囲内で走り続けるのが良いでしょう。ただ、マラソンでも普段の練習でも、自分に合ったペースがあります。それは人と比べるものではなく、自分自身の能力と紐づいています」(平川さん)

そこで、無理なく効率良く走るペースと走力のレベルアップをめざすため、呼吸を分析する装置(呼気ガス分析)で、AT値による「全身持久力」を評価してもらいました。

AT値とは、無酸素性作業閾値(Anaerobic Threshold)の略称で、有酸素運動から無酸素運動にシフトしていくボーダーラインのこと。少しずつペースを速くしながら呼気ガスの数値を見ることでAT値がわかり、無理なく効率的に走ることができるペースが見えてきます。

測定時間は、約15~20分。専用のマスクを付け、トレッドミルが動き出すとともに計測がスタート。徐々にトレッドミルのスピードが上っていきます。測定者から「限界になったら合図をして教えてくださいね」と言われるので、みなさん限界になるまで必死で走るそうです。呼吸がハァハァと荒くなって数分後、測定は終了。

計測結果とアドバイス

計測結果の画面がこちら。数値を基に分析を行い、個人へのアドバイスを行います。

「今回の計測結果では、5:00/kmあたりが有酸素と無酸素のボーダーラインです。十分な練習を積み、レースへの準備ができていれば、このペースを守ることでマラソンでも後半潰れることがなくラクに走れるでしょう。ステップアップをめざすなら、このラインより少し速いペースで走る練習を取り入れることで、ボーダーラインを上げることができます。自分をあえてその状態に持って行くことで、身体が耐えられるようになります。練習では、呼吸が弾むようなややきつめのペースで40~60分ほど走ると良いでしょう」(平川さん)

全身持久力は、ASICS RUNNING LABで計測ができます(有料)。ASICS RUNNING LABでは、全身持久力のほか、体格的側面、ランニングフォーム、脚筋力など、ランニングパフォーマンスに関わる項目が測定可能。結果をもとに目標に向けたトレーニング指針を専門スタッフが提案してくれます。フルマラソンのタイムを予測することもできます。

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<2>ランニングフォーム測定:自分の走りを知る

ランニングフォームの測定風景。タブレット端末をかざしてフォームをチェックしてもらいます。

ランニングフォームはケガ予防との結びつきが強く、ランニングを続ける上で重要なポイントとなります。多くのランナーがフォームを気にしたことがあるのではないでしょうか。アシックススポーツ工学研究所が開発した「ASICS RUNNING ANALYZER(アシックスランニングアナライザー)」というフォーム計測システムを使用し、7つの項目を測定しました。

計測結果とアドバイス

測定結果の画面サンプル。このように、ピッチやストライドの幅、身体の上下動などを診てもらうことができます。

私の計測結果は「ピッチが少なめのストライド型で上下動が大きく上半身が直立気味」ということでした。動画を見た平川さんからのアドバイスから「腕を引こうとしすぎて身体がねじれている」ことがわかりました。

「ピッチ(1分間あたりの足の回転数)は、走り慣れたランナーであれば180くらいを意識して、適切なリズムを心がけると良いと思います。ピッチが少ないとストライドが大きくなり、ブレーキをかけすぎて膝や脛の筋肉に負担がかかりやすくなります」

「上体が反り気味になるフォームは女性にありがちです。直立しすぎていますが、自然な前傾が理想的です。また、腕を引こうとして身体をねじっていますが、これは効率が悪く、腰の痛みや違和感に繋がることもあります。腹筋、背筋など体幹部分を鍛えると良いですね」(平川さん)

今回のような客観的な測定を受けたのは初めてなのですが、これまで「正しいフォームで走れているのだろうか」と、走り方ばかりを気にしていましたが、ピッチを意識したことはありませんでした。それが結果的にフォームの崩れに繋がっていたと知って驚きました。

また、ずっと悩んでいた腰痛も、上体のクセが原因かもしれないとわかり、自分で解決できそうです。漠然と正しいフォームを知るだけでなく、走りのクセや特徴を知ることで、何をどう直すべきか原因と改善方法が明確にわかり、すぐにでも実践したい気持ちがわいてきました。

ASICS RUNNING ANALYZER は、AI画像解析技術を用いたプロネーションタイプの判定サービス。トレッドミル上での走行を10秒程度撮影し、着地から蹴り出しまで、ランニング時の足の運びを分析します(無料)。

プロネーション・ASICS RUNNING ANALYZERについてはこちら

「ランニング」×「データ」の効果

ランニングを続けるために知っておきたいデータが取れたところで、これらを日々のトレーニングにどのように活かせば良いのか、平川さんに詳しく聞いてみました。

――ここまでで測定したデータは専門的なものですが、日常的に取れるデータではどんな項目を見ると良いのでしょうか。

自分にとって無理のないペースを知るには、心拍数を知るのがおすすめです。日頃から心拍数を計測して、自分が楽に走れる心拍数を把握しておくと良いと思います。また、いつも同じランニングコースを走っているならば、いつもより心拍数が高かったときは、体調不良やオーバートレーニングなど身体の変化にも気付きやすくなります。心拍数が測れるウォッチをランニングアプリと連携させることで、日々の変化を定期的に見返すと良いと思います。

――アプリだけで測れるデータのなかで、見ておくと良い項目はありますか。

時間や距離、コースなどももちろんですが、ピッチ(1分間あたりの足の回転数)も参考になります。ピッチが少なくストライドが大きい人は、ピッチを意識してみてください。また、疲れてくるとピッチが少なくなりがちです。アプリはスマートフォンの振動で測るものですが、おおよその指標になります。

――月間走行距離が気になる人も多いと思いますが、これってどれくらい重要な指標なのでしょう?

ランナーは月間走行距離を指標にしている人が多いですが、これが長続きしない原因になっていることもあります。ランニングを続ける理由や楽しみ方は人それぞれです。でも、月間走行距離を気にしすぎると、人と比べてしまう、前よりも頑張っていないなどと落ち込みがちです。良い走りをするには、フォーム、筋力、心拍などさまざまな要素が関係してきます。距離の積み重ねだけでなく、違った観点で自分の変化を見ることで、ランナーとしての成長過程を楽しむことができますよ。

――取ったデータは、どのようにトレーニングに活かしていけば良いのでしょうか

最初は、データだけ見てもどのように改善したら良いのかわからないこともあります。そういう時にはランニングコーチなど専門家にアドバイスを求めましょう。ランニングイベントなどに参加すれば、先輩ランナーや同じようなレベルのランナーにデータを見せて色んな人の意見を聞いてみるのもおすすめです。1人で続けるよりも、他の人からアドバイスを受けたり、褒められたりすることでもっと楽しくなるでしょう。

アプリを使って、ログを取ってみた

平川さんのアドバイスを受けて、日々のトレーニングの記録を見直してみることにしました。今回、ログを取るに使用したのは、「ASICS Runkeeper™(アシックス ランキーパー)」というランニングアプリ。このアプリは、さまざまなログが取れるだけでなく、モチベーションを保つためのトレーニングプランの設定やワークアウトスケジュール、ワークアウトプログラム、「チャレンジ」と呼ばれるオンライン参加型のイベントがあります。

今回は、ランニング、自転車、ウォーキングなど、5週間で5つのアクティビティ達成を目指す「5×5チャレンジ」に挑戦しました。

設定画面では、音声ガイドや表示形式を細かく決めることができます。走行中の画面表示は数字が大きくて見やすいですね。普段走るとき、ウエストポーチや腕にスマホを付けて走っている人も多いと思いますが、止まらずにちらりと画面を見る時に、余計な情報がなく、見やすいと思います。走り終えた後は、距離や速度をアプリが褒めてくれるので、トレーニングが楽しくなります。

本来「5×5チャレンジ」は5週間で5つのアクティビティに挑戦するものですが、試しに1週間でこれを達成しようと毎日走ってみました。

短期間で達成できる目標があると、ちょっと面倒な気分の日も走るきっかけになるのではないかと感じました。平川さんからアドバイスを受けたピッチも意識して走ってみましたが、まだ少し足りないもののだいぶ改善されています。

なお、有料版の「ASICS Runkeeper Go」では、大会本番の日付を入力すると、ログをもとにインサイトが表示され、目標ペースも自動計算されます。今回はゆっくりめのランニングだったので、今後は測定データをもとに練習内容やフォームを新たにレベルアップにチャレンジしたいと思います。

ASICS Runkeeperについてはこちら

TEXT:Emma Nakajima
PHOTO:Takuya Ikawa