年を重ねて体型が気になり始めた頃、ちょっと走ってみようかなと始めたランニング。とりあえず下駄箱にある適当なスニーカーで走ってみたは良いものの、靴擦れをしては絆創膏を貼って走っていました。それからしばらくして初めてランニングシューズを履いたとき、羽根が生えたような気分で、うんとランニングが楽しくなった感動をいまでも覚えています。
そう、ランニングを続けるには最初が肝心。なかでもシューズはランナーの相棒となるとても大切な存在です。ですが、お店にはたくさんのシューズが並び、ビギナーにとってはどれを選べば良いのかわからないことが多いのではないでしょうか。「なんとなくかっこいいから」では逆に足が痛くなるおそれもあります。ゆるっとランニングを続けて約10年のライターが初心者の頃を思い出しながら、池田コーチにシューズ選びの基本とポイントを聞いてきました。「それ、初心者の頃に知りたかったなあ」というアドバイスもあり、貴重な取材になりました。

<目次>

■教えてくれた人

池田美穂さん
アシックスランニングクラブコーチ。東京マラソン・ニューヨークシティマラソンといった市民マラソンから、大阪国際女子マラソンなど国際レースに出場。アシックス直営店や全国各地で、市民ランナーへのランニング指導を行っている。

教えてくれた人

ランニングシューズ選びは、まず、自分の足を知ることから

私がランニングを始めたころにやってしまった「手持ちのスニーカーで走る」。ランニングあるあるではないでしょうか。確かに靴擦れもしますし、とても疲れるしダメなのは身をもって体験したわけですが、どうしてダメなのか?さっそくコーチに疑問をぶつけてきました。

――ランニングをするには、やはりランニングシューズを履かないとだめなのでしょうか? 手持ちのスニーカーからはじめる、という人も多いように思うのですが。

「専用のものを選ぶ」というのは走るためには大前提です。スニーカーで走り始める人もいますが、走るためには作られていないので、トラブルを起こしてしまいます。ランニングシューズは足の構造や本来の機能を研究して走るために作られているシューズです。自分の足に合うものに出会えば、「シューズを履いていないんじゃないか」と思うくらい足と一体化するんですよ。

――足が痛くなってはランニングを続けられないですし、何より楽しくないですもんね。

そうですね、走る前の準備としてぜひランニングシューズは用意してほしいと思います。それから、自分の足を知ることも大切です。

――自分の足を知る、ですか?

はい。実はみなさん、自分の本当の足のサイズを知らない人が多いんです。普段履きのスニーカーやパンプスなどはそもそものサイズ展開がS~Lといった表記であったり、試着した感覚で選んだりしますよね。ASICS RUN TOKYO MARUNOUCHIをはじめとした、ASICSの直営店では、足の計測サービスを無料で実施しています(品川・早稲田は除く)。このようなサービスを利用して自分の足のサイズを知ることが大切です。

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――確かに。わたしもずっと足のサイズは23.5cmだと思っていたのですが、測定をすすめられて試しに測ってみたら22.5cmだったということがあります。1cmも違ったのには驚きました。

勘違いや思い込みもよくありますね。なぜか「わたし幅広なんです!」という人がとても多いんですが、測ってみたら案外普通だったりするんですよ。まずは、足長と足囲を知るのが良いと思います。

――なるほど。測ってみてサイズが判ったら、ぴったりサイズを買えば良いのでしょうか。

ランニングシューズは、左右の足長を測ったら、長い方のサイズのプラス約1cm大きいサイズを選ぶのが一般的です。私なら、素足のサイズは右が24.0cm、左が23.9cmなので、ランニングシューズは25.0cm、といった具合です。

――1cmもですか?

ランニングは、着地した時に体重の約3倍もの衝撃がかかると言われています。それによってアーチが下がるため、足ゆびが通常時より前に出ることになります。そのため、足のサイズよりも少し大きめを選びます。

初心者向けのランニングシューズって、どうやって選べば良いの?

「さあ、ランニングシューズを買いに行くか!」とお店に行くと、びっくりするのがその種類の多さではないでしょうか。デザインやカラーも気になりますが、他にも気を付けるべきことがあるはず。初心者がランニングシューズを選ぶときのポイントを教えてもらいました。

――では、初心者が自分の足にあったシューズを選ぶには、どんなものが良いのでしょうか。お店にはたくさんのシューズが並んでいて、何をどう選べば良いかわかりません。

簡単には初心者向け、中級者向け、上級者向けといったふうに考えてもらえれば良いのですが、トップクラスのランナーやある程度の練習を積んだ競技志向のランナーが求めるシューズと、ビギナー向けのものは「優先順位が異なる」と考えましょう。初心者はまだランニングフォームや筋力が整っていないため、それを助ける機能がシューズに備わっています。たとえば、衝撃をやわらげるクッション性や左右のブレを抑える安定性、プロネーションと呼ばれる足が地面に着くときにかかとが内側へ倒れる足の動作をサポートする機能などを見ると良いでしょう。

(左側から)初心者・中級者・上級者のシューズ。かかとの作りが、上級者になるにつれてどんどんシンプルになっていることがわかります。

中上級者になると、筋力が付いて脚にも耐性ができ、自分でこれらの機能を補うことができます。衝撃が少ない洗練されたフォームと、身体をコントロールできる筋力があれば、地面を蹴り出すグリップ力とシューズの軽さが求められることになるわけです。初心者が中上級者向けのシューズをいきなり履くと、脚の故障やトラブルにつながることもあります。

――なるほど、カッコイイからという理由だけで選ぶと失敗しますね。

見た目ももちろん大切です。気に入ったシューズを買うとテンションも上がってモチベーションに繋がりますからね。初心者向けのシューズでもいろいろなカラーやデザインがあるので、機能を前提としてその中から気に入ったものを選ぶと良いと思いますよ。

ランニングシューズを試着する時のポイント

――最後に試着する時のポイントを教えてください。

まずは、「ちゃんと履いてみる」ことです。靴ヒモを全部ゆるめて正しく締め、店内を歩き回ったり小走りしたりしてみると良いでしょう。とはいえ、足を入れただけではなかなか感覚がつかめないこともあります。トレッドミルがあるお店やランニングステーションが併設されていれば、同じモデルをレンタルして実際に走ってみることをおすすめします。

1. 最初に「かかとを合わせる」ことを忘れない

シューズに足を入れたら、かかとをコンコンと床に着いてかかとを合わせます。

2. 靴ヒモは、つま先の方から順番に締める

靴ヒモは全部ゆるめて(あるいははずして)、つま先の方の孔から足の甲を包むような感じで順番に締めていきます。甲部分はあまりきつく締め過ぎないように。一番上まで来たら、最後に前にキュッと引いて締めること。

3. 母趾球と小趾球がフィットしているかを確認する

3.	母趾球と小趾球がフィットしているか

靴ヒモを締めた状態で、親ゆびの付け根と小ゆびの付け根のあたりがシューズからはみ出していないかチェックします。フィットしていることで横ブレを防ぎます。この時、足のゆびが動くことも確認しましょう。

4. つま先、アーチや履き口、くるぶしが当たっていないかを確認する

そのほか、つま先、足の土踏まずの部分や足首周り、くるぶしなどに違和感がないか確認しましょう。

走り始めこそ、トラブルが起きやすいもの。足が痛くなってしまってはせっかくのランニングが続けられませんよね。気持ちよく走るためには、正しいシューズ選びが大切です。池田コーチの言葉として印象的だったのは「シューズ選びと同じくらい重要なのは、正しい履き方」ということ。最初はどうしてもマメや靴擦れは起こりやすいですが、その多くは履き方が間違っていたという例も少なくないそうです。晴れてランニングシューズデビューをした際には、試着の手順を参考に、正しくシューズを履いて街へ駆け出しましょう。

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TEXT:Emma Nakajima
PHOTO:Takuya Ikawa