普段からスポーツと接する人でも、体験したことのない競技も多いハズ。あまり知られていないけれど、気軽に始められて楽しくて健康にもいい、実はそんなスポーツがまだまだあります。本連載ではそんな魅力の詰まったスポーツを紹介していきます。

若い世代にも広がりつつある太極拳の魅力とは

今回ピックアップするのは「太極拳」。発祥の地である中国では国際大会も開かれ、国民的スポーツとして高い認知度を誇りますが、日本ではご年配の人たちがラジオ体操代わりにするもの、というイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。英語では「タイチ」と呼び、太極拳よりもライトなものとして日本でもその呼び方が広がりつつあります。

 

そんななか、「身体への負担が少なく、医学的にも高い効果を得られることがわかり、若い世代にもその魅力が浸透しはじめています」と話すのは、2018年に全日本武術太極拳選手権大会の女子太極拳・太極剣部門で優勝を果たした、齋藤志保選手。日本を代表する選手でもあり、太極拳と医学を組み合わせた「タイチスタジオ」で講師として教える若きアスリートです。

 

「太極拳はゆったりとした動きが特徴的ですが、よく比較されるのはダンスとヨガです。ダンスと同じように美しい動きを追求する一方で、武術から来ている太極拳には動きに“強さ”があります。また、ヨガは身体が硬い方が無理をすると怪我をすることもありますが、太極拳は3次元的に円を描きながら無理なく身体を伸ばすので安全性が高いです。ヨガとダンスのいいとこ取りをしたスポーツが太極拳と言えるかもしれませんね。ちなみに、私たちのスタジオでは太極拳をエクササイズ化したものをタイチと呼んでいます」

 

さらには「上達するほど健康の効果も高くなります」と齋藤選手は話します。

太極拳

「たとえば、呼吸を止めないで動く、といった動作は自律神経を整えるのに効果的です。慣れないうちは難しい動作ですが、練習していくとだんだんできるようになります。また、中腰を使う型は足腰の強化につながり、骨粗鬆症の予防にもなります。ほかにもさまざまな型がありますが、こうした効果が得られるのも、人間の全身に通っている経絡とツボ(経穴)を刺激する動きが取り入れられているからです。

 

さらに、身体には瞬発的な力を発揮する「速筋」と、持久力を維持する「遅筋」があります。遅い動きのトレーニングは主に遅筋を鍛えるものですが、太極拳は速筋も鍛えることができるバランスのとれた動きなんです。年齢が上がるにつれて速筋は鍛えづらくなってきますが、太極拳は年を重ねてもできるところがいいですね」

必要なものはウエアとシューズだけ

銀座にスタジオを構えるタイチスタジオでは30代が3割ほどを占め、じわじわとその年齢層も下がってきているといいます。手軽に始められるのが魅力のひとつで、ウエアとシューズをそろえればOK。齋藤選手にそれぞれのアイテムを選ぶ際のポイントを教えてもらいました。

 

「ウエアは、楽しむだけならラフな格好であれば何でもよいですが、より高いパフォーマンスを求めるなら、下半身は関節の動きがわかるようにピッタリとしたものを着用することがオススメです。膝が内側に入ったり前に出てしまったりすると故障する原因となってしまいますので、鏡で見たときに動きがわかるようなウエアを選ぶようにしましょう」

 

また、齋藤選手は太極拳を始めたころからずっとASICSの太極拳用シューズを愛用しているそうです。

太極拳を始めたころからずっとASICSの太極拳用シューズ

「一般的なトレーニングシューズとは違い、底が平らで厚みがあまりないものが良いです。足の裏をしっかりと意識していくスポーツなので、ちょうどいいバランスなんです。ASICSのシューズはデザインもかっこよくて周りの選手もみんな履いていましたし、中国人選手から日本で買ってきて、と頼まれるくらい人気なんです」

ビギナーにオススメの3つの型

タイチスタジオが実施するクラスは大きくわけると3つ。太極拳の基本姿勢や基本的な体の扱い方を学ぶ「メディカルタイチクラス」と、ダイエットやヒーリングなどタイチスタジオがオリジナルで開発した「フォーカスクラス」、齋藤選手をはじめ、世界トップクラスの講師陣から伝統的な太極拳を学ぶ「太極拳クラス」。

 

今回はビギナーが取り組みやすいメディカルタイチクラスで行われている、中国古代のストレッチとして宋の時代から行われる健康体操「八段錦(はちだんきん)」をいくつか実践していただきました。

 

まずは背骨をまっすぐに伸ばし、背骨周りの筋肉を締める「ドローイン」という基本姿勢から。体幹を鍛えられ、お腹周りの引き締め効果があるそうです。普段意識しないとできない動作ということなので、レッスンではまずここからレクチャーしていきます。

齋藤選手

八段錦のひとつ目の型である「一段錦(双手托天理三焦)」は、息を吸いながら、組んだ掌を顔の前から頭の上まで引き上げていくシンプルな動作です。「三焦」というのは内臓を指す言葉で、腕を耳の真横まで上げて内臓をストレッチすることを意識しながら行いましょう。五臓六腑につながっている経絡を刺激することで疲労回復の効果が期待できます。

齋藤選手

次に見せていただいたのは「二段錦(左右開弓似射雕)」と呼ばれる型で、文字通り弓を引くかたちが原型となったもの。ポイントは腕を伸ばして手首を直角に曲げること。その際、親指と人差し指を伸ばし、ほかの指は曲げることで、指から腕・胸へと通る経絡が刺激され、心肺機能の強化に効果を発揮するそうです。

齋藤選手

最後は免疫力を高める「四段錦(五労七傷往后瞧)」。胸を広げて息を吸いながら腕を外側へと捻り、首から繋がる背骨をねじるように頭を回して眼球を後方へともっていきます。このときのポイントは眼球の動きを意識するということ。首にある大椎穴のツボを刺激することで効果があらわれてきます。

 

齋藤選手の動きを見ているとゆっくりとした動きで簡単そうにも見えますが、効果が出るように正しい動きをするとかなりハードで、わずか10分ほどのレクチャーでしたが齋藤選手も汗だくに。実際、その場で手の動きを真似してみると、普段動かさない神経がピンッと張り、状態を維持するだけでも相当な体力を使うことがわかります。

 

ヨガや柔軟運動とは違う、経絡やツボを意識したトレーニングは心と身体を同時に健康にするものなので、ふだん運動する人にとっても新しい感覚になるのではないでしょうか。今回紹介したものは一部ですが、初心者向けから上級者向けものまでさまざまなコースがあるので一度その魅力を体験してみてはいかがでしょうか。

 

施設情報
「メディカルタイチ」 (銀座校)
料金: 15,000円〜(月5会員)
住所:東京都中央区銀座5-14-1 銀座クイントビル8F
電話:03-6264-3342
http://taichistudio.jp/

 

text: Keisuke Tajiri     photo: Kenta Yoshizawa