ギリギリで戦うアスリートたちに心を揺さぶられる

自己ベストの短縮方法や理想のフォーム探し、心構えなど、運動について追求し始めると、その答えは人から教えられることも多いですが、本の中にもたくさんのきっかけがあります。一冊の本との出会いが、運動に興味を抱かせ、運動を始めたり探求したりするためのきっかけになることもあれば、読書で学んだことが運動に直結することもある。その意味において、幅広い読書が運動の役に立つと言えるでしょう。


そんなスポーツの時間をもっと充実させる本を、書店関係者やブックコーディネーターなど、その道のプロフェッショナルが独自の視点から紹介。第3回目は講談社発行の女性漫画雑誌『BE・LOVE』編集長の岩間秀和さんによる選書です。


『BE・LOVE』の代表作といえば、競技かるたを題材にアニメ・実写化もされた「ちはやふる」ですが、岩間さんによると過去に誌面でスポーツ漫画を担当したのは一度きりだといいます。


「『コロコロコミック』、『週刊少年ジャンプ』、『週刊ビッグコミックスピリッツ』で育ってきたので、漫画といえばスポーツなんですよね」と語る岩間さんが好きなジャンルは、スポーツと社会派。「もがきながらも必死に努力を重ねていく、それが切実であればあるほど伝わるものがありますよね。世の中の課題に光を当て、漫画ならではのフィクションで夢を描くところに魅了されるんです」


岩間さんは入社以来、20年以上も女性漫画雑誌である『BE・LOVE』に携わってきた、漫画編集者です。一方でプライベートでは、数多くの競技を現場で観てきた“観る専”と言い切るほどのスポーツ観戦ファン。そんな女性漫画雑誌の編集に関わりながら、スポーツ観戦に情熱を注いできた岩間さんの選書テーマは「ギリギリ感に圧倒されるスポーツ漫画」です。小さい頃からスポーツ漫画に心を震わされている自身がスポーツ観戦を好きな理由として、「勝敗というわかりやすい結果と負けた方にも何らかの得るものがあるからです」と明かしますが、それはスポーツ漫画から受けた影響でもありました。


「スポーツを観るからには、選手が置かれている状況などを理解した上で寄り添うように観戦したいタイプ。だから、スタジアムや現場に居合わせなくてもギリギリやヒリヒリ、ドキドキを十二分に体感できる漫画を選びました。描き手である漫画家さんが競技をよく咀嚼されていて、表現力が抜きん出ていると感じる3冊です。一級品の作品は、繰り返し読んでもその興奮は冷めません」

今回セレクトしたものは、「いつ読んでもギリギリで戦うアスリートたちの切実感に心を揺さぶられる作品です」と語る岩間さん。どうなるかわからないヒリヒリ感や勝者と敗者の中のドラマに心を揺さぶられ、夢と希望を感じられる選書となりました。

リアル 井上雄彦
© I.T.Planning,Inc.

リアル
井上雄彦
集英社(1999年〜)

バスケをするには車いすバスケしか道がない、という退路を断ったアスリートたち。彼らの競技にかける思いまでをひっくるめての「車いすバスケ」という競技の臨場感を、これでもかというほど味わえる漫画。私も「BE・LOVE」で障害のある人たちを描く漫画を長年担当してきたのですが、「リアル」は健常者と障害者のあいだに横たわる乖離(本音)を、ごまかすことなく描いていて、それが車いすバスケという競技の魅力を浮き彫りにしているなあ!と、ずっと刺激を受けてきました。いち読者として、連載再開(高橋君の今後)を切に願っています。

弱虫ペダル 渡辺航
© 渡辺航(秋田書店)2008

弱虫ペダル
渡辺航
秋田書店(2008年〜)

「もしかしたら、俺もまだまだ成長できるかも?」と錯覚を覚える(笑)くらい、レース中に目に見えるほどの成長を遂げる選手たちに、ずっと感銘を受けっぱなしです。もう足が動かないだろうというところからのラストスパートに、ボクシングの限界まで減量する姿を一瞬重ねてしまうのですが、なぜそこで力をふりしぼれるのかという問いに対しての答えを、悲壮感というよりは自分のキャパシティ開拓のように描かれているところが素敵です。あとに挙げる「ちはやふる」もそうですが、挫折から成長へのドラマが主役から脇役に至るまで、きちんと存在するところも大きな魅力だと思います。

ちはやふる 末次由紀
© 末次由紀/講談社

ちはやふる
末次由紀
講談社(2007年〜)

競技かるたは「畳の上の格闘技」と呼ばれているので、この漫画をここで挙げても許されますね(笑)。他のスポーツ漫画にない、世代と性別を超える戦いを読めるところがポイント。だからこそ、選手それぞれが「違う切実さ」を抱え、戦いに挑む。年齢的にもうあとがない選手、子育てとの両立を目指す選手、そして高校3年間という限られた時間の中で燃え尽きようとする選手、などなど。絵の表現としての「ギリギリ」だけではなく、各選手の内面から出てくる「ギリギリ」を描いているからこそ、「ちはやふる」は面白い漫画なのだと思います。



岩間秀和

埼玉県出身。1993年講談社入社以来、編集者人生は『BE・LOVE』ひと筋。2012年2月より編集長に就任する。現在は『BE・LOVE』の他に隔月刊の女性漫画雑誌『ITAN』も担当。好きなスポーツ観戦は高校野球、箱根駅伝、サッカー。心の漫画ベスト1は「キャプテン」(ちばあきお・集英社[1972〜1979年])

※ 2018年6月よりモーニングへ異動。



Interview:Shota Kato
Text:Kaori Takayama
Photo:Tetsuya Yamakawa