東京五輪を目前に控え、日本の陸上応援スタイルはどこに向かうべきか―。
現役日本代表選手2名もお呼びし、陸上競技を愛する皆さんで語ってみた。

■参加者(集合写真左から)

マッスル根岸(Team Accel)  @52305815
中央大学時代に名物応援リーダーとして名を轟かせ、現在も選手へ精一杯の声援を送り続けている。クマのかぶりものがトレードマーク。100mで日本選手権出場の実力も併せ持つ。

TKD PROJECT(Team Accel)  @tenpatakeda
人気の陸上系Youtuber。トレーニング動画や、トップ選手がいつもと違う一面を見せる動画が好評。陸上会場では選手より先に子供たちに囲まれることも。

若林康太(駿河台大学)  @kai024_kai024_k
19年春に行われたドーハアジア選手権男子4×400mRでアンカーを務め金メダル獲得に貢献。翌月行われた横浜世界リレーでは、世界選手権出場もかかっていた同4×400mRで予選・決勝共に再びプレッシャーの大きいアンカーとして出走し4位入賞に貢献、ドーハ世界選手権代表に。

金丸祐三(大塚製薬)  @goldenmaru
08北京五輪・12ロンドン五輪・16リオ五輪と3大会連続で五輪出場中。高校3年時から日本選手権400m11連覇。世界選手権にも通算7度出場するなど、長きにわたり日本陸上界を引っ張る。

大西正裕(Team Accel)  @ohnishigundan
社会人陸上競技クラブチームTeaAccel代表。全国でのかけっこ指導など、「走る」楽しさを伝え、陸上競技の普及に尽力している。横浜世界リレーではマッスル根岸と共に学校対抗スタイルの応援を観客席に持ち込み、日本代表の活躍に寄与。

西本武司(EKIDEN News主宰)  @EKIDEN_News
渋谷のラジオ制作部長。メタボ対策ではじめたジョギングがきっかけで箱根駅伝と陸上にハマってしまう。世界選手権やダイヤモンドリーグなど各国で主要大会を取材。

陸上競技を応援するということ

陸上競技を応援するということ
西本武司さん

西本:僕は元々、陸上競技というよりは箱根駅伝が好きでこの世界に入ってきたので、初めて競技場に入るときは緊張しましたね。いざ行ってみると、入場料さえ払えば入れるし、好きな選手やチームを応援できる。ただ、やはり独特の“作法”があるので、せっかくオリンピックで高いチケットが当たったのに、会場で応援を楽しめないというケースが出てきてしまう。

金丸:陸上競技ってコアファン以外からすると敷居が高いイメージがあるのだと思いますし、確かにそういった部分も存在します。観戦マナーでも例えばスタート前は静かにしなければいけないし、通路での立ち見もダメ。ただ、最低限のマナーさえ守ってもらえれば、熱くなってスタンディングオベーションすることは問題ないと思います。

大西:選手からすると、応援で気を付けてほしいところはありますか?

陸上競技を応援するということ
金丸祐三さん

金丸:やはりスタート前ですね。それまではどれだけ騒がしくても良いのですが、「On your mark!」とアナウンスされた瞬間に静まり返る。それからパァンとスタートして、一気に歓声が上がる。それが選手としてもレースに集中できるし、観ている側としても気持ち良いと思います。一度、モロッコの大会で現地の伝統音楽が流れてきて、うるさくて集中できないことがありました(笑)。

西本:ドーハでの世界陸上も、まさにその状態でしたね。「On your mark!」となっても歓声が止まなくて、WA(世界陸上競技連盟)も静かにしろとアナウンスするのですが、まったく静かにならない。そのうちに「これもアリじゃないか」となった例がありました。その2年前に行われたロンドン世界選手権は印象的でした。席を立つときも、目の前に選手が来た時だけで、応援マナーが身についている。そういったヨーロッパの観戦スタイルを見るたびに、日本の応援がどこに向かっているのかを考えてしまいます。

根岸:応援する側にも、引っ張る存在が必要だなという話は、僕らもよくしています。

TKD:戦略的に応援の枠組みを作って「日本の応援を変えていくんだ」という想いを持ってやらないと、日本の陸上の観戦スタイルは変わらないし競技場は満員にならないと思います。

西本:根岸さんは一人で変えていったじゃないですか。

根岸:僕はただ、観戦スタイルを確立しようとか、変えてやろうという思いがあったわけではなくて、ただ自分が楽しいからやっていました。自分達がやっていて楽しい応援の延長線上に、我々が目指している応援のスタイルがあります。

西本:昨年横浜で行われた世界リレーの応援はすごかったね。

大西:あの時は、日本代表チームから大会の4日前くらいに「世界選手権が決まる、東京五輪の試金石になる大会だから盛り上げてほしい」と言われて、根岸と何ができるかを考えて、SNSで拡散して…。近隣の高校や関係者には来てくださいとアナウンスして、駿河台大からも若林選手の大応援団が来てみんなで応援しました。

陸上競技を応援するということ
マッスル根岸さん

根岸:やって良かったと思うことは、日本の陸上を応援したい人が、これだけいるんだということがわかったこと。潜在的な層がいて、音頭を取ったら反応してくれたので、僕らが動く価値のある事だと思いました。

西本:あの応援がなかったら、ジャマイカの方が上だったからね。ボルトの引退で少し元気ないかなと思っていたけど、お客さんの熱量はすごいです。いまだに強い。それから、今年警戒しているのは中国ですね。1,000人集まって一斉に「加油(ジャヨウ)!」って叫ばれたら東京は中国のホームグラウンドに(笑)。しかもみんな、赤いユニフォームを着てくる。サンライズレッドが負けてしまう可能性があるんじゃないか。ドーハ世界陸上の深夜に行われていた競歩でもどこよりも目立っていた。対抗できる応援を日本も作っていかないといけないと思いましたね。

選手から見た応援

選手から見た応援
(左から)金丸祐三さん、若林康太さん、西本武司さん

若林:走る直前まで、不安のほうが大きいときがあります。長い期間をかけて僕が選考された代わりに、選ばれなかった選手もいる。選ばれたからには、この大会を次の大会に繋げなければいけない。失敗したらどうしようとか。そんな時に、ホームの応援というか大学のみんなの応援を受けると、根拠のない自信が沸いてきます。いつも決まった応援があると、それがスイッチになると僕は思います。

金丸:確かに応援によって、スイッチが入るというのはありますね。海外のレースでも「金丸!」と呼んでもらえると気合が入ります。それが結果に繋がるかどうかはわかりませんが、応援されることは間違いなくプラスだと思います。

根岸:僕らはとにかく、選手の力になれれば良くて、選手のプレッシャーを少しでも消せればいいと思ってやっています。ただ、それが「応援してやっている」と思ってしまうと、結果が出なかった時にバッシングに変わってしまうんですね。そういうあり方は、五輪が終わった後に結果がどうであってもあってほしくない。応援に見返りを求めるのではなく、そのマインドは大事にしていきたい。

金丸:12年のロンドン五輪はすごかった。陸上好きの観客が多かったですね。お客さんが、陸上競技の観戦の仕方を知っている。盛り上がるところで盛り上がって、競技者として気持ちがよかったです。熱気と共に、観客もヒートアップしていく。これから観たいレースが始まるという期待感が競技者にも伝わってきて、今までで一番緊張しました。スタートラインまで歩く途中で、ビシビシと観客席から熱気を感じて、頭が一瞬真っ白になりましたね。

西本:色々な人の話を聞いても、ロンドンは特別ってみんな言うんですよね。

金丸:五輪自体が特別ということもありますけど、世界選手権でも、ヨーロッパの人は観方が分かっています。自分が観戦していても気持ちが良い。アットホーム感というか、みんな陸上を楽しみに観に来ているという感じがします。

選手から見た応援
大西正裕さん

大西:競技場に行くと、速さや迫力、すごさは伝わるんですけど、選手の顔が遠いんですよね。初めての人は事前に予習していないと、よくわからないまま競技が終わってしまう可能性があります。

金丸:主催者側に、応援シートを作って貰いましょう。そこの席は、みんな応援するよと。「この席に座った人はこういう応援をするので、一緒に応援してください」というシートを作ってしまった方が、静かに観たい人との区別になる。

西本:サッカーでも、ゴール裏はそういう場所だというのが知れ渡っていますよね。立って応援するのが前提。ここはもう、大声出す場所ですよと。

根岸:静かに観たいという人も一定数いるので、区別は必要でしょうね。

大西:応援シートはかなり需要があると思います。いまだに、観ながら記録を書いている、記録会の延長にいる人たちもいますから。

TKD:絶対、応援したい層はいますし、うるさくされたくない層もいます。ただ、これを変えていかないと、競技場は満員にならないと思います。盛り上がる可能性はまだまだあると思っているので、大阪や東京だけではなくて、地方でももっと盛り上げていきたい。

金丸:応援する側って、誰か特定の選手を応援しに行くという人が多い。その選手がいないと、テレビ観戦でいいかなとなってしまう。加えて、新規のお客さんを陸上競技に呼ぶとなったときに、観方が分からないという人が多い。どこ観ていいか分からない、どう観ていいか分からない人が多くて、そういう人たちをどのように楽しませるのかが大事だと思う。

選手から見た応援
TKD PROJECTさん

TKD:陸上選手って少し遠い存在で、気軽に話しかけられないイメージがあると思うのですが、YouTubeで選手の素の部分を出すことで、ファンが付きやすくなると思います。そういった“選手のファンづくり”を経て、その選手を応援しに会場に足を運ばせる。まずは選手との距離感を縮めていって、必然的に選手として応援したくなる。そういう流れを作りたいです。

金丸:そうした試みは新規ファンはもちろん、元々の陸上ファンからしても、競技とは違った一面を見れるので、すごくウケが良いんですよね。僕も専門誌のコラムで他の選手のプライベートを書いたとき、やはり反響が多かった。競技以外の面を知ってもらえると、親近感が沸きますよね。

若林:YouTubeとかで取り上げて貰えるのはすごく大きいと思います。それでファンが増えてくれるのは嬉しいし、大事だと思います。

TKD:陸上の応援の難しいところは、動機付けですよね。五輪では日本代表という括りができますが、どうテーマを持っていくか。日本選手権も、あくまで個人対個人じゃないですか。そこが悩ましいですね。

西本:まずはコミュニティを増やして、輪を広げていくことが大事ですよね。身内が増えていけば、声も大きくなっていく。最初から大きなことをしようではなくて、1人ひとり仲間を増やしていく中で大きくなっていって、いつの間にかそれがスタンダードになる。

サンライズレッドのTシャツでファンの一体感を。

大西:僕らTeam Accelはユニフォームを着て応援しています。応援する側の一体感も大事にしています。

若林:観客席でも目立ちますよね。応援してくれている味方というのが、一目で分かります。それは観客席だけではなくて、試合会場に行く途中でも、サンライズレッドを着ている人を見るだけで応援してくれているとわかるのが嬉しいです。

金丸:あと、これを着ていくと選手にサインされやすいと思う。陸上が好きなんだなというのが伝わるので、選手としても嬉しいんですよね。

大西:陸上競技場に行く理由を、ただパフォーマンスを観に行くだけにしてはいけないと思っています。例えば「一緒に応援したい」とか、「競技場に行けば盛り上がる」とか、にわかファンをもっと増やしていきたい。陸上競技をやってきて、選手がすごく努力してきて、でも本番の競技では数秒で終わってしまう。でもそこまでのストーリーにはドラマがあって、そこに感動が生まれる。これを着ている人が集まることで応援しやすくなるし、自分たちが好きでやっていることが選手にとってプラスに感じてもらうことが出来れば、やる意味はあると思っています。

金丸:Tシャツだけだとちょっと足りないですよね。もっと色々なアイテムがあると良いと思います。マフラーとかリストバンドとか、ワンポイントで使える応援グッズがあると新規の人も採り入れやすいんじゃないかな。

西本:サッカーや野球はファッションとして着ることができるけど、陸上はまだまだそういうアイテムが少ない。アシックスさん、宜しくお願いします(笑)。

 

 

TEXT:Kensuke Maruyama(Spopre)
PHOTO:Nagisa Kamiya

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