探検はスポーツの延長線上にある

自己ベストの短縮方法や理想のフォーム探し、心構えなど、運動について追求し始めると、その答えを人から教えられることもありますが、本の中にもたくさんのきっかけがあります。一冊の本との出会いが、運動を始めるきっかけになることもあれば、読書で学んだことが運動の上達に結びつくこともある。その意味において、幅広い読書が運動の役に立つと言えるでしょう。


そんなスポーツの時間をもっと充実させる本を、書店関係者やブックコーディネーターなど、その道のプロフェッショナルが独自の視点から紹介。第4回目は“一冊の本を売る本屋”というコンセプトを掲げる森岡書店の森岡督行さんによる選書です。

森岡さん

スポーツが大好きという一面も持つ森岡さん。神保町の古書店に勤務していた20代の頃は、勤務後に毎日と言っても過言ではないほどプールに通い、水泳に熱中していたとか。バランスボールも得意で、独自のコーチング法を編み出せるくらいに極めているそうです。


「知識と好奇心を得続けるために必要なのは、実は体力です。本屋の仕事は重い荷物を持つことが多く、見た目以上に体力を要します。30代で独立してからは、一人でこなさなければならない仕事も格段に増えました。ほとんど休みなしで働いていたその頃に体を壊さなかったのは、スポーツで培った体力のおかげだと思っています。バランスボールを始めてからは、体幹を整えることも意識するようになりました」


そんな森岡さんが今回テーマに掲げたのは、スポーツとしての探検。探検はスポーツの延長線上にある、と森岡さんは語ります。


「日本のここ200年ほどの歴史を振り返ると、定期的に探検隊が結成されてきたことがわかります。間宮林蔵による樺太への間宮探検隊や、浄土真本願寺派の大谷光瑞による中央アジアへの大谷探検隊。石原慎太郎を隊長とする国際ネッシー探検隊。糸井重里による徳川埋蔵金発掘プロジェクト。近年は、ダイオウイカ探索や、池の水を抜くテレビ番組が企画されました。これは、未だ見ぬモノを可視化しようとする人々の意欲の現れに他なりません。そのために必要なものとは並々ならぬ体力とメンタル、準備であり、それらはまさにスポーツに必要な要素なのです。自分自身独立してからは、どんな人と出会い、それが何に繋がるのか、新しいことを探し求める日々でもありました。それはまさに探検だったと思うのです」


定められたフィールドやコートのなかで、未だ見ぬモノ(ベストタイム・スコア)を追求する。そのためのプロセスが、果てしない未知の世界を明らかにする探検にも共通するというのが森岡さんの持論。今回紹介する3冊は、スポーツと探検を、本を通して探る体験ができる選書となりました。

モゴール族探検記

モゴール族探検記
梅棹忠夫
岩波新書(1956年)


モゴール族とはアフガニスタンに住むとされるモンゴル人の末裔。幻の民とよばれるこの一族が、本当に実在するのかを調査しに向かった梅棹忠夫の記録。時は1955年。当時、モンゴル人は日本人の祖先にあたるのではないかと目されていました。これが探検のバックボーンとなっていたのでしょう。いずれにしても、梅棹忠夫さんの語り口を読んでいると、自分なりのテーマを見つけたくなる。本書にならって旅に出たくもなる。どんな靴を履こうか。体力をつけておく必要もあるでしょう。学術書の趣きもありますが、探検とスポーツの共通項に誘ってくれる一冊でもあります。

散歩のとき何か食べたくなって

散歩のとき何か食べたくなって
池波正太郎
新潮文庫(1981年)


資生堂パーラーなど街の食処を紹介する本ですが、本書片手に散歩することを考えれば、れっきとしたスポーツの指南書に見えてきます。経験上、主に車で通勤している人と、主に電車で通勤している人では、後者の見た目のほうがちょっとたくましいように感じます。日常的に歩くことはやはり体力を維持させるのでしょう。探検とのつながりで言えば、何も遠くに行くことが探検ではありません。三つ隣の駅に降りてみれば、知らない風景が広がっています。散歩は、ウォーキングという身近なスポーツでありながら探検の側面も持ち合わせています。散歩という行為に興味が湧く一冊です。

アラスカ探検記

アラスカたんけん記
星野道夫
福音館書店(1990年)


アラスカの大地で写真を撮り続けた星野道夫による写真絵本。星野道夫の旅は、19歳の時、写真集で見たアラスカのシシュマレフ村に憧れ、村長に手紙を書き、単身村に向かったことにはじまります。「自然の中で生活するエスキモーの人たちにとって 動物は見て楽しむものではなく 生きていくために殺さなければならない」という言葉は、大自然を探検する者にとって共通理解なのでしょう。美しい自然の写真の背後には同等の厳しさがあります。私たちはこの絵本に表されているアラスカ探検の世界から、星野さんの体力とメンタルのタフさ、そして入念な準備があったであろうことを推しはかることができます。


森岡督行

山形県生まれ。神保町での古書店勤務を経て、森岡書店をオープン。現在は銀座にて“一冊の本を売る本屋”というコンセプトの元、小さな店を構える。著書に『写真集 誰かに贈りたくなる108冊』(平凡社)、『BOOKS ON JAPAN 1931-1972 日本の対外宣伝グラフ誌』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『荒野の古本屋』(晶文社)など。小中学生の頃にバスケットボールに所属していた当時、ASICSのバッシュは憧れだった。



Text : Kaori Takayama
Photo : Tetsuya Yamakawa
Edit : Shota Kato