「一生懸命トレーニングをしているのに、なかなか成果が出ない」
何かしらのスポーツをしたり、ジムで身体を鍛えたりしたことのある人なら一度は感じたことのあるお悩みではないでしょうか。
トレーニング効果をより高めるために、私たちは何を意識すべきなのでしょう? ヒトの身体の動きを研究している専門家に話を聞くべく、アシックススポーツ工学研究所に向かいました。

<目次>

「姿勢」を意識することが、パフォーマンスアップの近道

今回、お話を聞いたのは、アシックススポーツ工学研究所の小澤 明裕さん。アパレル機能開発チームに所属し、アスリートの体型や身体の動きを研究し、ウエアの開発を行っています。趣味はフットサルで、開発中のウエアを試着してプレーすることもあるそう。そんな人の身体のつくりに詳しい小澤さんに、トレーニングのパフォーマンスアップに大切なことを聞いてみました。

アシックススポーツ工学研究所の小澤 明裕さん。アパレル機能開発チームに所属し、ウエアの機能開発に携わる。

――トレーニングのパフォーマンスを上げるためにはどんなことを意識すると良いのでしょうか?

トレーニングというのは、身体に負荷をかけて行うことがほとんどです。ですから、怪我のリスクも高まります。そして、怪我のリスクを減らし、より効率的にトレーニングを行うには、「姿勢」を意識することがとても大切になってきます。

――姿勢が大切ということですが、正しい姿勢とはどんな状態のことをさすのでしょうか?

筋肉を部分的に鍛えるにしても、体幹や全身を鍛えるにしても、正しい姿勢で行うことはとても大切なことです。人間の背骨は、首、背中、腰の3か所でカーブを描いていて、この3つのカーブが繋がり、大きくS字のカーブを描いています。このような背骨の配列を「アライメント」と呼びます。アライメントが適度に湾曲していることで、身体の重心を適正な位置に保ち、運動中の衝撃や負荷を和らげるクッションの役割を果たしてくれるというわけです。アライメントが崩れれば、背中や腰などへの負担が高くなり、怪我のリスクが高まることになります。

骨格見本をもとに「正しい姿勢」について教えてもらう。骨盤が姿勢の良し悪しに関係していたとは…。

――正しい姿勢を意識する際、「背筋をまっすぐ伸ばす」というような言葉のイメージからも、胸や背中を反れば良いと考えがちですが、今のお話を聞いていると違う気がしてきました。正しい姿勢はどうすれば意識できるのでしょうか?

胸や背中は反らずに、身体に一本の「軸」が通っているような感覚を意識すると、身体は自然とS字カーブを描き、正しい姿勢になります。でも、背骨を意識するというのは難しいですよね。背骨の形状を決めているのは、じつは骨盤の角度なんです。骨盤をやや前傾ぎみにすることで正しい姿勢を作ることができますよ。

――「軸」や「姿勢」を意識することで、どのようなパフォーマンスアップが期待できるのでしょうか。

軸は、「走る」「飛ぶ」「泳ぐ」といったあらゆる動きで必要です。アシックススポーツ工学研究所による研究で、アスリートの身体の軸を支えることによって、バランス力が上がることが証明されています。特に、「走る」という動きは多くの競技に共通します。走る際には骨盤の角度が適正な位置で安定することで、パフォーマンスが向上すると考えられています。また、骨盤が正しい位置にあれば、怪我をしにくく筋肉のパワーを発揮しやすいとも言われています。たとえば、ウエイトトレーニングならば、正しい姿勢になることでより高い負荷のものが上がるようになるなどの変化も期待できますよ。

――逆に、正しい姿勢が維持できていないとどのようなトラブルが起こるのでしょうか。

たとえば、猫背の人の場合、アライメント(背骨の配列)が崩れてS字カーブが作られず、腰などに負担がかかります。また、腰椎が後ろあるいは前に必要以上に傾いていると、椎間板の突出によって神経の圧迫に繋がり、腰痛やヘルニアのリスクが高まります。腰のトラブルは筋肉を鍛えるなどして改善することができますが、筋肉はそう簡単に付くものではありません。また、癖になってしまった姿勢を正しく戻すには、身体が覚えるまで意識し続ける必要があります。それだけ、崩れた姿勢をもとに戻すのは大変なことなんです。

――トレーナーの指導を受け続けられれば良いですが、自分で正しい骨盤の位置や姿勢を意識し続けるのは簡単なことではないですね。

はい、そのようなお悩みを解消すべく、私達は正しい姿勢になるよう身体をサポートするウエアを開発しています。そのなかでももっとも新しいシリーズが、MOVELAYER ADVANCEです。

機能はそのまま、着やすさを追求。良い姿勢をサポートするウエア

正しい姿勢を保つのは、意外と大変。そんなお悩みの解決に役立つかもしれないサポートウエアについて、さらに詳しく聞いてみました。

――新たなサポートウエア、MOVELAYER ADVANCEは、これまでのトレーニングウエアやサポートウエアとどのような部分が違うのでしょうか。

機能の目的としては、ほとんど変わりありません。ですが、今までのアシックスのサポートウエアは、生地を切り替えたり、2枚重ねにしたりすることで生地を硬くし、着圧機能をもたせていました。ただ、これではどうしても縫い目が多くなり、ウエアとしても重くなりがちです。また、窮屈で長時間の着用に負荷を感じやすい部分もありました。今回、新たにMOVELAYER ADVANCEを開発するにあたり、生地を探すことから始めました。新しく採用した生地は、軽くて伸びが良く、とても着心地が良いんです。従来のアシックスのベースレイヤーよりも約15%軽量になり、ストレッチ性は約60%アップしました。また、ラバープリントを施すことで縫製を減らしています。ラバー部分がドットになっているので、通気性が悪くなるという心配も少ないんですよ。ラバーの分布(密集度合い)や大きさを調整し、グラデーション状にすることでサポート力はそのままに、着心地と動きやすさを両立しました。

これまでのサポートウエアと違い、ドット上のラバープリントの量をグラデーション状に散りばめ、圧力に強弱をつけている。

――着やすいサポートウエアって、良いですね。ちなみに、体幹を補正する機能をもったサポートウエアはこれまでもあったかと思うのですが、MOVELAYER ADVANCEの骨盤調整機能の仕組みを教えてください。

まず、トップスは、お腹にある空洞(腹腔のあたり)に圧力がかかるように設計されているのですが、ここを締めることで、背骨の動きが安定するだけでなく、左右のブレも抑えることができます。
タイツは、骨盤の位置を補正するために、腰の高い位置に強めの圧力をかけ、腹部の圧力は弱めにすることで、骨盤が自然と前傾するような設計になっています。
トップス・タイツともに、身体を締め付け過ぎないように圧力のかかり方がグラデーションになるように調整しています。

――かなり細かくウエアの着圧を研究した上で開発されたのですね。

いくつものセンサーを貼り付けた専用の身体模型にウエアを着せて、ウエアの着圧を測る装置を使って測定しました。圧の強さにあわせて、骨盤の傾きを調整しようとする力が自動的に計算される仕組みを考え、何度も「骨盤の正しい傾き」になるように繰り返し測定しては、ウエアの設計を微調整しました。

空気が通る細い管に繋がったセンサーをトルソーに取り付け、着圧を測定。センサーの数は右半身のみで32箇所(タイツの場合)にものぼる。

――どのように着用すると最も効果を感じられるのでしょうか。

タイツに関しては、後ろは腰までしっかり覆われているか、前はヘソ下になっていることを確認してください。あとは難しいことは考えず、普通に着ていただいて構いません。まずは着用していただき、全身を動かしているうちにウエアが自然と適度な位置に調整されていきます。

骨盤が自然と前に傾くように、腰側は深めのシルエットで、着圧も高めなつくりになっている。

―― MOVELAYER ADVANCEは、一般的なウエアよりもサイズが小さい印象です。着脱になかなか苦労しそうですが、苦しくないのでしょうか。

開発のテーマは「動きやすさ+着心地」です。今回採用した生地はとても軽くてストレッチ性に富んだやわらかい生地です。そのため、サイズをやや小さくすることで、サポート力はそのままに、着心地の良さを追求しました。これまでは軽量性とストレッチ性は相反する素材が多かったのですが、MOVELAYER ADVANCEでは競技を問わずさまざまな動きに対応できる着心地になっていると思います。

――サポート感が強すぎず、着心地のいいウエアで自然と姿勢が正されるのは良いですね。

トレーニングのパフォーマンスを上げるためには、正しい知識を身に付け、自分の身体のことを知ることがとても大切です。その上で、筋力をつけると同時に「正しい姿勢」を身に付けることが、結果的によりトレーニングのパフォーマンスをアップさせることにつながると思います。より効率的にパフォーマンスを上げるためにも、ぜひサポートウエアの助けを借りてトレーニングに励んでいただきたいですね。

トレーニングアパレルはこちら。

TEXT:Emma Nakajima
PHOTO:Takuya Ikawa