都道府県別の魅力度ランキングで10年連続1位に輝くなど、圧倒的な人気を誇る観光地・北海道。ウィンタースポーツの盛んな冬も魅力ですが、涼しく、快適に走れる夏はランナーにとって絶好の季節です。日本で唯一、8月に開催されるフルマラソンの陸連公認大会『北海道マラソン』。その舞台となるのが、道都“札幌”です。
札幌は、北海道の中心都市でありながら、豊かな自然が広がる街。駅から徒歩圏内に『大通公園』や『さっぽろテレビ塔』、『北海道庁旧本庁舎(赤れんが庁舎)』などがあり、少し足を延ばせば広大な大地に溶け込む現代アートに触れることもできます。各所にランニングスポットやコースが整備され、スポーツと観光を同時に楽しみたい旅人ランナーにぴったり。そんな札幌を、世界各国を旅してきた経験を持ち、ランナーでもある大杉亜依里さんがラントリップ。「北海道はほぼ初めて」という彼女の目を通して、札幌の魅力に迫ります。

世界的彫刻家が手掛けたモエレ沼公園で自然×アートを体感

大杉さんがまず向かったのは、札幌を代表するアート・パーク『モエレ沼公園』。
公園といっても、その敷地面積は約188.8haで、東京ドーム約40個分という広さ。世界的な彫刻家イサム・ノグチ氏が基本設計を手掛けた園内には、モニュメント『ガラスのピラミッド』や最大25mまで吹き上がる『海の噴水』など、幾何学形態を多用した施設が点在し、自然とアートが融合した美しい景観が広がります。

公園のランドマーク『モエレ山』は高さ52m。山頂からは札幌市内全体が見渡せます。実はここ、不燃ゴミなどを積み上げた人工造成山。ゴミ処理場跡地だったこの地の公園化計画で、ノグチ氏は「人間が傷つけた土地をアートで再生する」と話したそうです。

「ちょっと大変かもしれませんが、モエレ山を小走りで上ると、達成感が味わえそうです。何度か見掛けたランナーの黄色い靴が芝生の緑に映え、思わずチェックしました(笑)。美しく雄大な自然とアートに触れ、心ゆくまでトレーニングできる贅沢な空間だと思います」

札幌のシンボル・大通公園は、北海道マラソンのスタート&ゴール地点

札幌を訪れたなら、必ず行きたい定番スポット『大通公園』。東西約1.5km、西1~12丁目にわたってのびる園内には花壇や樹木が整備され、YOSAKOIソーラン祭りや雪まつりなどのイベント会場になります。
年中、多くの観光客や市民で賑わっており、ランニング向きの環境ではないと思いきや、『北海道マラソン』の発着地点に設定されています。しかも、スタートの合図は、あのさっぽろテレビ塔の電光時計によるカウントダウン! 全国から集まった約2万人のランナーが札幌市内を走ってめぐる光景は、北海道の夏の風物詩です。
大通公園は噴水や彫刻作品など区画ごとに個性があり、端から端まで走っても見飽きません。なかでも、北海道マラソンのゴールとなる大通西8丁目と西9丁目の中間にある『ブラック・スライド・マントラ』は、モエレ沼公園を手掛けた彫刻家イサム・ノグチ氏によるオブジェであり、子どもに大人気の滑り台です。

名物の焼きトウキビ、北海道の果実や野菜をたっぷり使ったジュースで栄養補給するのもおすすめの過ごし方です。
「わたしは走ると食べ物のお店ばかり目に入るのですが(笑)、このトウキビは絶対食べちゃう。大通公園には屋台が並んでいて、お祭り気分でウキウキします」

フォトジェニックな旅の思い出は、赤れんが庁舎で決まり

「写真好きなランナーも多いと思いますが、わたしは今日は楽しく走ろう!と決めた日は、絵になるスポットを探しながら走るんです。“映えスポット”を見つけたときの興奮ときたら!(笑)」
そんな大杉さんがひと目で「可愛い!」と気に入ったのが、『赤れんが庁舎』の愛称でお馴染みの『北海道庁旧本庁舎』。1888年に建てられたアメリカ風ネオ・バロック様式の歴史的建築物で、庁舎前の道路は北海道マラソンのコースにもなります。
「格好良くて大好き! 斜め下からカメラを構えると、空にれんがの赤が映えてたまりません。色んな国に行きましたが、“好きな建物ランキング”のトップ5に入ります(笑)。走りながらこの建物をちらっと見るだけで、格好いい~! とタイムが20秒ほどアップする気がします」

魅力的なのは、外観だけではありません。館内では貴重な資料や絵画が無料公開され、ボランティアガイドも常駐。北海道開拓の歴史を学んだり、札幌観光のおすすめルートを教わったりできるのも人気の秘密。
また、赤れんが庁舎正門の先には、約100mの歩行者専用道路『札幌市北3条広場(通称・アカプラ)』が続いています。飲食店や雑貨店が入る商業ビルが周辺にあり、『札幌市時計台』や『大通公園』に近いので、観光のついでにランチやショッピングを楽しみ、ここでのんびり休むのがおすすめの過ごし方。駅付近のホテルから近く、ひとっ走りするのに、もってこいのスポットです。
※赤れんが庁舎は改修工事のため、2019年10月から休館。2022年度にリニューアルオープンする予定です。

JRタワー展望台で札幌観光を振り返り&ランのご褒美を

最後に紹介するのは、札幌駅に直結したビルの最上38階にある『JRタワー展望室 タワー・スリーエイト』。地上160m、視界360°というグレートビューを満喫できます。
「走った後で展望台に上るのは初めてですが、やってみると面白い。ランニングルートを俯瞰すると、地図で見るのとは違う手応えがありますね。こうして札幌を眺めると、山に囲まれていることがよく分かる。イサム・ノグチ氏など多くのアーティストがインスピレーションを感じたのは、こうした環境が影響しているのかもしれませんね」
展望台南側には『T’ CAFE』があり、昼はコーヒーなど各種ドリンク、ドリアやワッフルなどフードメニューを提供。夜はバーとして、夜景を眺めながらゆったりくつろぐことができます。
フロアには、街や鉄道をテーマにしたこだわりグッズなどを販売する『T’SHOP』があり、旅の記念品を買い求めることもできます。また、女性は入れませんが、建築家の小林純子氏が手掛けた“圧倒的開放感を独り占めできる”という男性用トイレも人気スポットです。 展望台からのパノラマ風景は、きっとさまざまな発見をもたらすことでしょう。
「わたしは、GPSの軌跡で絵や文字を描きながら走る“ランアート”にハマッていて、最近だと5月1日に東京で『令和』の文字を完成させたばかり。札幌の道だと、どんな文字ができるだろう……牛かな?(笑)。じっくり考えてみたいです」

大杉さんは最後に、こんな言葉で旅を締めくくりました。
「札幌がすごく好きになりました。自然の緑やれんがの赤など、カラフルでオシャレな街。寒くなければ(笑)、住みたいくらいです。そういえば、ランナーでもある小説家・村上春樹氏のエッセイを通してサロマ湖100kmウルトラマラソンも気になっています。北海道は本当に広く、札幌以外にも見どころがたくさん。今度はほかの街にも行ってみたいですね」
広さも、その魅力もビッグスケールな北海道、札幌。皆さんもぜひ、ラントリップしてみてはいかがでしょうか。

TEXT:Atarame Nanae・PHOTO :Ito Rumiko

コース: 札幌観光地巡り10kmコース