中止や延期が続いていたマラソン大会も、徐々に再開され始めてきました。コロナ禍にランニングを始めて「そろそろ大会に出てみたい」と思っている方や、数年ぶりの大会で自己ベスト更新を狙っているランナーもいらっしゃるでしょう。
そこでアシックスランニングクラブの小谷浩コーチと、ランニングシューズ担当の鈴木利奈、アパレルイクイップメント担当の島田亜生子が大会出走に向けて必要な準備を初心者、中・上級者のレベル別にレクチャー。第一回は大会までのトレーニング方法と、トレーニングをサポートするおすすめアイテムをご紹介します。

【初心者】練習はいつから始める?大切なのは徐々に距離を伸ばすこと

アシックスランニングクラブの小谷浩コーチ
アシックスランニングクラブの小谷浩コーチ。大会前のトレーニングについて教えていただく。

――初めて大会を走る方やサブ5前後の初心者ランナーが、フルマラソンに出場するとしたら、いつ頃から練習を始めればいいでしょうか?

小谷 半年あればベストですが、3ヶ月あれば運動経験がない方でも、ほとんどの方がゴールはできます。避けてほしいのは、マラソンを走るからといって、いきなり無理をすること。怪我やトラブルの元になりますので、運動経験のない人は週2回、30分程度のウォーキングから始めてください。また、日常生活でも階段を使ったり、なるべく歩いたりするなど、脚づくりを意識して過ごすといいでしょう。
練習の強度は息切れをしない程度のスピードが目安。早足でウォーキングをしても息が上がらなくなったら、ランニングへと移行しましょう。

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――ランニングに移行したら、どのぐらいのスピードで走ったらいいですか?

一般的には1km7分ペースと言われていますが、個人差があるので、ランニングでも呼吸が上がらないギリギリのスピードを目安にしてください。マラソン練習は継続性が重要です。長続きしないきつい練習は、怪我をしないためにも避けましょう。
その代わり、2ヶ月前になったら練習の回数を週3回に増やしてください。3回のうち1回は少し長く走り、それ以外の2回は短めにするなど、メリハリをつけると、疲れにくくなります。とにかく1ヶ月前までは、無理をせず、徐々に距離や時間を増やしてください。

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【初心者】大会1ヶ月前には距離よりも時間に重点を置く

――1ヶ月前になったら、練習方法は変わりますか?

小谷 はい。一般的には約1ヶ月前に30km走をしましょうと言われることが多いのですが、初心者の方は20km走で十分。距離よりも時間に重点を置いて、3時間走を目指してください。もちろん走れる方はぜひ30kmに挑戦してみてください。

――つまり1ヶ月までに、3時間走れる走力をつけなくてはいけないということですね。

小谷 そのとおりです。ただし、途中で歩いても、休憩を入れても問題ありません。大切なのは動き続けるということ。長時間動き続けることに慣れるための練習が3時間走なんです。それでも本番では、ほぼ倍の時間を走ることになると覚えておきましょう。
もし一人で走るのが不安な方は、ハーフマラソンの大会に出場するのもいいでしょう。初めてフルに出られる方は大会の雰囲気がどういうものか分かりますし、本番の服装や持ち物の確認にもなります。また多くの大会で給水が用意されているので、身軽に走ることもできます。

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【初心者】大会まで1ヶ月を切っても同じように練習を

――ハーフマラソンで大会慣れをしておくということですね。大会まで1ヶ月を切ったら、どのように過ごしたらいいでしょうか?

小谷 中・上級者の場合は、1ヶ月を切ると疲れを抜くために、徐々に量を落としていくものですが、初心者の方々はそこまで負荷が高くないので、走力を落とさないためにも、それまでと同じように練習を続けてください。ただし、スピードを上げる必要はありません。
そして大会の2、3日前にジョギングペースで5kmほど走って、大会前日はゆっくりと体を休めましょう。

【初心者】ランニングシューズやポーチはどのようなものを選ぶべき?

――ランニングシューズはどのようなものを選んだらいいですか?

小谷 初心者の方は筋力が弱いので、疲れてくると着地が不安定になりやすい。着地が不安定になると、足が内側に倒れ込みがちになり、膝や股関節、腰の怪我へとつながりやすくなります。そこで選びたいのが、安定性の高いシューズです。

鈴木 アシックスで安定性の高さを誇るのは「GEL-KAYANO 29」ですね。初心者の方の中でも完走を目指すランナー向きのシューズです。このシューズの安定性の特長は2つあります。
ひとつ目はミッドソールの内側から中足部にかけて、硬度の高い素材を使用した「LITETRUSS」構造です。足の内側への倒れこみを抑制するほか、シューズのねじれを抑える効果があります。
もうひとつはかかとのホールド感を高めるために、かかとの外側から樹脂製のヒールカウンターを搭載しているのですが、内側だけ少し高めになっているんです。こちらも、足が内側へ倒れこむのを抑制する役割を発揮しています。

GEL-KAYANO 29
GEL-KAYANO 29。硬度の高い素材を使用した「LITETRUSS」構造。

小谷 安定感だけではなく、履き心地もいいですよね。

鈴木 ミッドソールにクッション性と反発性に優れた「FF BLAST PLUS」という素材を使っており、この素材がやわらかい履き心地を実現しています。
そして、サブ5レベルのランナーの方には「GT-2000 10」がおすすめです。安定性がありながら、「GEL-KAYANO 29」と比べて約20g軽くなっている(27.0cm 片足での比較 KAYANO 29 約300g/27.0cm、GT-20000 10 約280g/27.0cm)のが最大の特長です。また、ミッドソールに軽量で反発性に優れた「FLYTEFOAM PROPEL」を使うことで、推進力がアップし、軽くスムーズに走れるようになっています。

GT-2000 10を紹介する、シューズ担当の鈴木。

小谷 ただ「GEL-KAYANO29」も昔に比べたら、軽くなっていますよね。もし数年前のシューズをそのまま履いている方がいたら、ぜひ新しいシューズを試してほしい。軽く、楽に走れることに驚くと思いますよ。
もうひとつ初心者の方に練習で試してほしいのが、ポーチやリュックです。感染症対策によって、荷物を預けられない大会も出てきていますが、本番でいきなり荷物を持って走るとなると、感覚が変わって、疲れを感じやすくなります。初心者の方は、大会が近づいてきたら、なるべく本番に近い装備で走って欲しいですね。

【初心者】シューズやポーチの選び方のポイントは?

――選び方のポイントはありますか?

島田 まず、短い距離の練習にはランニングベルトが適しています。例えばこちらは伸縮性のあるベルトに3つのスリットが入っていて、スマホや鍵などの小物を収納できます。

ランニングベルト
ランニングベルト。3つのスリットにスマホや鍵などの小物を収納できる。

島田 もう少し容量が欲しい方や、長い距離を走るときはもう少し容量のあるウエストポーチLがいいでしょう。ポーチの外側にはペットボトル、ベルト部分には補給食などを入れることができます。

ウエストポーチ
ウエストポーチ L。ポーチの外側にはペットボトル、ベルト部分には補給食などを入れることができる。

小谷 これは僕もすごく使っています。薄いけれどすごく容量が大きいし、腰にしっかりとフィットするので揺れにくく、快適に走れるのでお気に入りです。

島田 通勤ランやロング走、手荷物が預けられない大会では、着替えやジャケットも入れられるリュックがおすすめです。ショルダー部分にもポケットがあると、補給食やスマホなどを、走りながらスムーズに出し入れすることができます。

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リュックを紹介する、アパレルイクイップメント担当の島田。

小谷 リュックを選ぶときは揺れが気にならないかのほかに、腕を振ったときに邪魔にならないかも確認してみてください。

島田 アシックスのポーチやリュックは、揺れにくさに重点を置いて、改良を重ねていますので、ぜひためしてほしいですね。もうひとつ初心者の方のトレーニングをサポートしてくれるアイテムがランニングタイツです。例えば「ENERGY SAVINGロングタイツ」は、下半身を3つのゾーンに分けて着圧を変えることにより、痛みの出やすい中臀筋、太ももの上部、膝とふくらはぎへのサポート力を高めています。またひざ関節部分にV字のサポートを入れることにより、ひざの負担も軽くしています。

ENERGY SAVINGロングタイツ
ENERGY SAVINGロングタイツ。3つのゾーンに分けて着圧を変え、下半身をサポートする。

小谷 弊社の通常のタイツと比較すると、着地のときにひざにかかる負担が約10.8%も減少したという研究結果もあります。これはフルマラソンの距離に換算すると約4.5km分も負担が減るというシミュレーション結果があり、走行効率を高めていると言えます。このようにランニンググッズはどんどん進化していますから、初心者の方は賢く活用して、楽しみながら大会の準備をしてください。

【中・上級者】さまざまな練習を取り入れよう

――久々の大会で自己ベストを狙う中・上級者はどんな練習メニューを組んだら、レベルアップできるでしょうか?

小谷 1ヶ月前までは無理をせず、距離やスピードを徐々に伸ばしていくという考え方は初心者と変わりません。ただし、サブ4、サブ3を狙うランナーは、まず期分けをしてください。

小谷 ここで大切なのが大会1ヶ月前の30km走です。初心者の方にはゆっくりでも良いとお伝えしましたが、中・上級者の人がLSDで30kmを走っても、あまり意味がありません。狙っている記録を達成するためには、レースペースに近いスピードで30km走を行う必要があるのです。とはいえ、いきなりレースペースで30kmを走れるわけがありません。だからこそスピード養成期や、走り込み期が必要になってきます。

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【中・上級者】練習で気をつけること

――初級者と上級者では1ヶ月前のロング走に求める意味が違うということですね。練習で気をつけるところはありますか?

小谷 男性に多いのが、最初に頑張りすぎて、後半失速するパターン。こういう練習をしていると、それが癖になって、本番でも同じパターンに陥りやすい。徐々にスピードを上げて、最後は上げて終わるビルドアップ走などを取り入れて、終盤に頑張る癖をつけるといいですね。大会1ヶ月前からは徐々に距離を落としていき、溜まった疲労を抜いていきます。ただし、この時にスピードは落とさないように注意してください。
大会2、3日前になったら、最後の調整を行います。最初の3〜4kmはジョグでウォーミングアップをして、最後の1kmだけレースペースより少し速い速度で走ると、良い刺激入れになります。もう1つのポイントが練習の目的に合わせたシューズの使い分けです。それぞれの練習メニューに合わせた靴を選ぶことは、トレーニング効率を上げ、怪我の予防に繋がります。また、練習に合わせて靴を履き分けることで、大きな筋肉から小さな筋肉までまんべんなく脚を鍛えることができます。例えばインターバルトレーニングなどのスピード練習では、路面をとらえる感覚や、蹴る感覚を養い、脚力を強化できるミッドソールの薄いものが適しています。

【中・上級者】シューズは適宜「履き分け」を

鈴木 その観点で選ぶと「TARTHER RP 3」がおすすめです。ミッドソールが薄いだけでなく、中足部に使われているプロパルショントラスティックという樹脂製の素材が蹴り出しの力を強化するため、推進力もアップします。

小谷 「TARTHER RP 3」は、スピード練習だけでなく、ビルドアップやペース走など、長い距離に対しての刺激入れにもおすすめです。カーボン入りは楽にスピードが出せますが、ターサーだと自分の足でスピードを上げていかないといけない。これが脚力を強化させるんです。距離や内容にもよりますが、ポイント練習のメインシューズはターサーで良いと思います。

鈴木 そうですね。そしてポイント練習での疲労を抜くためのジョグのシーンでおすすめしたいシューズは「NOVABLAST 3」です。クッション反発性に優れたミッドソール素材を使用しています。また、前足部にくぼみがあり、この構造と素材の特性によって、トランポリンのように沈んで跳ね返るような感覚を体感できます。

小谷 弾む感覚がすごく楽しいですよね。しかもサブ4くらいの方であれば、レースでも使えるシューズなんです。
また、初心者向けとしておすすめをしました「GEL-KAYANO 29」ですが、帰宅ランやジョグで使うトップアスリートも多いんです。なぜかというと、適度に重みがあるため、「今日は軽くジョグ」と思っていたのに、走り出したらついスピードが上がってしまうという人におすすめだからです。ジョグは疲労を抜くためのものなのに、そこで頑張りすぎてしまうと、疲れが残ってしまい、次に行うポイント練習の質が下がってしまう。このシューズはペースをコントロールしやすく、クッション性、安定性も高く、おすすめのシューズです。
そしてレースシューズにおすすめしたいのが、カーボンプレートの入った「MAGIC SPEED 2」です。

鈴木 「MAGIC SPEED 2」はつま先からかかとまで、カーボンプレートを全面に入れることで、力強い推進力と足運びの安定性を実現しています。またミッドソールには「FF BLAST PLUS」という軽く反発性の高い素材を使っているので、軽やかに進むことができます。カーボンシューズを初めて履くランナーも履きやすいシューズになっています。

小谷 ビルドアップ走やレースペース以上の速さで長い距離を走る時や、大会で履くのにおすすめのシューズです。ちなみにレース1週間前を切ったら、足の感覚を揃えるために、普段の練習からカーボン入りシューズ(レースで使用予定のシューズ)に切り替えましょう。

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【中・上級者】実は重要、ソックスの選び方

島田 シューズの性能を最大限発揮するために、ソックスにもこだわって欲しいですね。例えば「プロパッドKAYANOカラーソックス」は、足の甲の内側部分にパッドが入っていて、足と靴の間に生じる隙間を埋めてフィット感を高めてくれます。「プロパッドターサーソックス」は、足裏に

防滑性に優れた滑り止めがついているので、レースペースのスピードでも、足が前にズレにくく、つま先が靴に当たるのを防いでくれます。

小谷 ソックスの種類によっては通常タイプと5本指タイプがあるのですが、地面をとらえる感覚を掴みやすく、僕は5本指タイプをおすすめします。ただ、指の間に布が入る分、いつもの靴がキツくなったり、感覚が合わないようでしたら、普通のものを選ぶようにしてください。

島田 シューズ内がムレやすい方は、和紙が入った素材のソックスがおすすめです。通常の綿のソックスに比べて、ムレにくく、靴の中を快適にしてくれます。

プロパッドターサーソックス
プロパッドターサーソックス。足底に滑り止めが入っている。

小谷 靴下を選ぶときにチェックしてほしいのは、ムレ、ズレ防止、シューズとのフィット感。さらに扁平足や疲れてくると土踏まずが下がってくる人は、アーチのサポートが強いものを選んでください。最近は、いろいろなランニングソックスが発売されているので、いくつか試してみて、自分の走りや靴との相性がよかったものを本番では選びましょう。また新品の靴下は、ノリが効いているので、おろしたてのソックスを本番で使うのは避けて、一度洗濯することをおすすめします。

目標を達成するだけでなく、大会を楽しむためにも入念なトレーニングは必須です。ときにハードな練習を乗り切るためにも、快適な走りをサポートしてくれるアイテムを上手に取り入れて、大会まで頑張りましょう。

Photo:Tetsuya Fujimaki
Text:Junko Hayashida(MO'O)